音楽と服

音楽と服について好き勝手に語ります

ボビーのネルシャツが気になる。

プライマルスクリームにはまったのは,学生時代に愛読していた地元のサブカル雑誌で「モア・ダーティーヒッツ」が紹介されたのがきっかけだった。

これ,名前の通り当時発売されていた彼らのベスト盤「ダーティー・ヒッツ」の,裏ベスト。プライマルスクリームというバンドは知らなかったが,ジャケが洒落ていたので購入。聴いてみると,「Come together」のゴスペルミックスなど味わい深い隠れ名曲にどっぷり浸かってしまった。

 

ところで,今ではちょっと考えられないが,2000年代にはプライマルスクリームやミューズなど,外タレの一線級が地方都市のZeppでライブをやっていた。

地元のZeppにプライマルが来るというので,チケットを買って観に行った。しかし,所有していたアルバムが前述の裏ベストと当時の最新作「ライオット・シティ・ブルース」,「スクリーマデリカ」のみ。プライマルの第二黄金期と呼ばれた「Xtrmntr」をはじめとする90年代後半から2000年代初頭のエレクトロニカ三部作をチェックしていなかったのは痛恨の極みだった。「スワスティカ・アイズ」「シュートスピード・キル・ライト」など聴衆がもっとも盛り上がる名曲が繰り出されたタイミングで乗れず,悔し涙を呑んだのだ。

せめて裏ではなく,表を買っておけば・・・。それが2006年の冬。

 

それからは,次なる機会を信じてリベンジを誓い,エレクトロニカ三部作を買い揃え,来るべき日に向けて着々と準備を重ねていった。

 

そして,ついに無念を晴らす機会が訪れた。

2008年フジロック。プライマルスクリームは二日目,トリ前のグリーンステージへの出演が決まったのだ。この年のフジロックに参戦した一番の目的は,プライマルスクリームのステージをモッシュピットで見届けることだった。

しかも,三日目の大トリに予定されていた忌野清志郎が体調不良でキャンセルになり,代役がプライマルに回ってきた。

つまり,プライマルスクリームは二日目,三日目と連続でステージに立つことになったのだ。

私は初めから,二日間とも最前列で彼らのステージを見届けると決めていた。

 

迎えたフジロック二日目,ステージに現れたプライマルスクリームの面々。ボーカルのボビーは,薄手の幾何学模様のネルシャツに黒のタイトなパンツでスマートに決めていた。

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フジロック2008でのボビー(「BUZZ Vol.48」より)

ボビーは奥さんがファッションデザイナーらしく,いつも細身でスタイリッシュな衣装に身を包んでいる。

そして,この時のステージでは「スワスティカ・アイズ」でも「シュートスピード・キル・ライト」でもイントロからばっちり乗ることができ,2年前の無念を晴らすことができた。

プライマルのライブがハネた後,満足しきってしまい,グリーンの芝生に腰を下ろして折れた煙草に火をつけた。汗でシャツはぐっしょり。夏とは言え苗場の夜は冷える。ステージではヘッドライナーのアンダーワールドが演奏を始めていたが,私は三日目に備えて鋭気を養うため,苗場の湯に行ってひとっ風呂浴びることにした。

苗場の湯では行列に並び40分ほど待ったが,それでもヘッドライナーの演奏中だから少ない方だ。私はシャワーを浴びながらプライマルのライブの余韻に浸り,明日のセットリストは何かと,三日目のステージが楽しみでならなかった。

 

苗場の湯を出て,火照る体でキャンプサイトへの道を一人歩く。キャンプサイトに入ると,下の方,グリーンステージから歓声が聴こえ,アンダーワールドのキラーチューン「ボーン・スリッピー」のイントロが微かに聴こえてきた。そろそろライブも終盤のようだ。

勿論アンダーワールドも聴きたかったが,それ以上に明日もプライマルを観れるという期待感のほうが勝った。

 

そして三日目,大トリを前にして私はやはりモッシュピットの最前列に陣取っていた。昨日よりは人が少なくなっている気がする。

私のように,二日連続でプライマルを観ようとする奴なんて,ほかに何人いるだろうか?

裏のホワイトステージはザ・ミュージック。そっちを観たい人が多いのも当然だ。

 

そう思いながらも,マイノリティの軽い優越感も抱きつつバンドの登場を待つ。

そして,開演ほぼ定刻に彼らは現れた。

 

私は一瞬目を疑った。

ボビーが,昨日と全く同じ格好をしていたのだ。

幾何学模様のネルシャツに,黒パンツ。

??

なぜ?一着しか持ってきてないの?貧乏?

いや,こだわりか?

私はその一瞬の間に,昨日から今日までの,苗場プリンスホテルでのボビーの一日を妄想していた。

 

昨夜,ライブを終えてメンバーと一杯やった後,苗プリに戻り,部屋に戻ってシャワーを浴びる。ついでにその日の衣装だったネルシャツを手洗い。ロックスターがホテルの風呂場で自分のシャツを洗ってる姿はちょっと泣ける。

よくよく絞ったシャツをはたき,窓際に干しておく。

翌朝遅くに目を覚ましたボビーは,寝起きの煙草をくゆらせながら窓際へ行き,シャツの乾き具合を確かめる。

出来れば朝からスコッチのグラスを持っていてほしい。ロックスターだから。

 

シャツがよく乾いていることを確かめると,ルームサービスを呼びアイロンとアイロン台を持ってきてもらう。

ロックスターがホテルの一室でアイロンをかける姿はこれまた泣ける。出来ればBGMはAC/DCあたりにしてほしい。間違えても「ヒルナ◯デス」やら「バイ◯ング」を観ながらとかはやめてほしい。

 

アイロンをかけるにしても本当はマネージャーとかにさせてるんだろうけど,なんだかボビーは自分で全部やってそうな気がしたのだ。

もしかしたら同じものを2セット持っているのかも知れないし。

 

そんなこんなで,三日目のステージはボビーの衣装のことで頭がいっぱいになり,曲が全く入ってこなかった。

 

以上がボビーのネルシャツが気になった話になる。

ボビー・ギレスピーのイメージを著しく傷つけてしまったかも知れないが,私にとって彼らは大切なバンドなのは変わらない。

また日本に来てくれる日を心待ちにしています。