「侘び寂び」とケミカルブラザーズ
「Wabi sabi make it messy」
(侘び寂び めちゃくちゃにしよう)
と歌ったのは星野源だが,日本人は古来よりこの「侘び寂び」という美意識を大切にしてきた。
「侘び寂び」とは,静かなものや古いものに趣を感じるといった感情といった意味のこと。
私は最近,iTunesでずっとケミカルブラザーズの「さらばダスト惑星」を聴いているが,この作品を聴くたびに,この「侘び寂び」の感情と,ビッグビートと形容される彼らの音楽とが深く結びついていく感覚を覚える。
これは感覚的な話だが,ケミカルブラザーズって,日本人好みの音を出していると思う。
既にベテランの域に達している彼らだが,同世代でエレクトロニック・ロック,ダンスミュージックのジャンルにおいて世界的な影響力があったエイフェックス・ツインやアンダーワールド等に比べたら,日本における知名度は抜きん出て高いのではないだろうか。
私は個人的にはアンダーワールドは凄く好きなのだが,彼らのことを知っているのは,洋楽好きな人に限られる印象がある。
しかし「ケミカルブラザーズ」と言えば,皆一度はその名を耳にしたことがあるのではないだろうか?
なぜか?と考えてみると,まずはタイアップが考えられる。
確か数年前にニッサンエクストレイルのCMに彼らの楽曲「セッティング・サン」が使われていた。
疾走感溢れる骨太なビート。
恐らく,世間的なケミカルのイメージはこの曲に代表されるような,いわゆるブレイク・ビートなのではないだろうか。
因みに,この「セッティング・サン」のボーカルはゲスト参加したオアシスのノエル。
この頃はよくコラボしてしてたみたい。さすが力強く歌い上げてます。
しかし,私が彼らの楽曲に惹かれるのは,力強いだけでなくそこに「侘び寂び」を感じるから。
「さらばダスト惑星」にこんな曲がある。
「Chico’sGroove」。
浮遊感のあるサイケなメロディ。
全体に流れるのは儚さやいくばくかの切なさといったイメージ。
プライマルスクリーム「スクリーマデリカ」にも通じるような高揚感があるが,「スクリーマデリカ」にはここまでの抒情性はない。
そう,抒情性。
電子音楽なのに,そこには人の温もりが感じられるのだ。
でもそこには,儚さもある。
それを「侘び寂び」と呼んでしまっていいのかは分からないが,このような曲もあるからこそ,彼らの楽曲は日本人に好まれているのではないかという気がしてならない。
2012年のフジロックで,彼らのステージを観たことがある。
会場全体をプロジェクションマッピングでスクリーン化し,そこにビッグビートを畳みかけるという,すさまじい熱量のライブだった。
フジロックでは何万という観衆向けの演出になってしまうのだろうけど,個人的には小さめのライブハウスで浮遊感のあるサイケなビートに酔いしれる,親密なライブも体験してみたい気がする。
まあ,彼らクラスになると,スタジアム級のライブでしか観ることはできないのでしょうけどね。
今回紹介したのは,90年代の楽曲ばかりでしたが,2000年代以降も秀作を多く発表しているケミカルブラザーズ。
まだチェックしていない方はぜひ。