「ゴリラズ」というビジネスモデルについての考察
このブログを始めた時の,最初の記事はUKロックバンドのブラーについてだった。
ブラーというバンドは,ブリットポップと呼ばれる,90年代半ばに起きたイギリスあげての一大ムーヴメントにおいて,オアシスと共に旗印的役割を担った。
英国人らしく諧謔の効いた歌詞や,知的でメランコリックな曲調により,イギリスを代表するロックバンドに成長したブラー。
しかし,ブリットポップの終息と共に,その音楽性は大きく変化していく。
90年代後半,ブラーはボーカリストのデーモン・アルバーン,ギタリストのグレアム・コクソンを中心として,英国的なサウンドから離れ,ヒップホップなど,よりアメリカを志向したアルバムを立て続けにリリースする。
しかし,セールス面ではあまり振るわず,バンドとしては次第に停滞期に入っていく。
デーモンが覆面プロジェクト「ゴリラズ」をスタートさせたのは,そんな時期のことだった。
「ゴリラズ」は,ブラーのデーモン・アルバーンと,コミックアーティストであるジェイミー・ヒューレットによる,音楽とアートの融合を目指したプロジェクトだ。
「ゴリラズ」のメンバーは,ボーカルの2D,リーダーでベーシストのマードック,日本人女性で,ギターやキーボード,ボーカルも担当するヌードル,ドラムを担当するラッセルから成る四人組・・・というのが表向きの「設定」。
彼らはアニメとしての姿で活動をしていて,実際には2Dはデーモン。他のメンバーも実在するアーティストが声や演奏を担当している。
このプロジェクトが革新的だったのは,単に音楽×アートの融合という図式で語られる部分だけではない。
デーモン・アルバーンという,巨大な才能を持ったアーティストの可能性の幅を最大限押し広げた一つの「ビジネスモデル」としても秀逸なプロジェクトだったのではないかと考えられる。
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ソロとしてサイドプロジェクトを立ち上げるアーティストはいくらでもいる。
ソロなので,バンドの時とは多少音楽性が変わってくるのは当たり前だが,バンドとソロの方向性があまりに乖離していると,もともとのファンは戸惑うだろう。
そのあたりが既存のソロプロジェクトの悩ましいところ。
まあ,新たなファン層の獲得につながることもあるだろうけど。
バンドとしての音楽性と,自分が本当にやりたい音楽とのバランスに苦慮するアーティストは少なくないのではないだろうか。
デーモンが始めた「ゴリラズ」が革新的だったのは,アニメの2Dとしての活動という「建前」なので,世間の「デーモン・アルバーン」像を気にする必要がなくなったという点にある。
ブラーと言えば英国を代表するロックバンド。
そのフロントマンであるデーモン・アルバーン。
そういった世間のイメージから一歩距離を置いた地点から,ヒップホップを新たな解釈で掘り下げていったのが「ゴリラズ」の存在意義であり,デーモンの挑戦でもあった。
ここまでゴリラズの原点と存在の特異性に多くの紙幅を割いたが,彼らの本当の凄さは実はその部分ではなく,楽曲やパッケージとしてのアルバムの完成度の高さにある。
彼らが発表したオリジナルアルバムはこれまでに6枚あるが,その中から3枚を紹介する。
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1.Plastic Beach
2010年に発表されたサードアルバム。
世間から孤立した,大海に浮かぶプラスチックの島・・・という状況設定で環境問題について提起しているという所謂コンセプトアルバム。
ポップで軽快,でも何処か皮肉が効いた楽曲にデーモンのセンスが光る。
2.The Fall
2011年の作品。
世界ツアーの只中で,デーモンが書き溜めていた楽曲を集めたツアー記的なアルバム。
ゴリラズのディスコグラフィーの中では存在感の薄い作品ではあるが,個人的には一番聴き込んだアルバムでもある。
全体的にレイドバックして落ち着いた雰囲気だが,浮遊感のあるサウンドは聴けば聴くほど味が出てくるスルメアルバム。
3.Humanz
2017年発表の5thアルバム。
これまでの作品以上に,コラボレーターと共にヒップホップ色を強めた印象。
何はともあれ,一番最後の「We Got The Power」に全て持って行かれる。
とりあえず聴いてみてください。
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ここまで,ゴリラズの魅力について述べたきた。
私はもともとUKロックが好きなので,ヒップホップというジャンルにはどうしても触手が伸びなかった。
ブラーのデーモンがやるプロジェクトなら・・・ということで聴き始めてみると,案外聴きやすい。
デーモンの解釈が入っているが故のことだとは思っていたが,自分の中でその理由がはっきりした瞬間がある。
関ジャニが深夜にやっている「関ジャム」という番組を観ていた時のことである。
その回には,若手ロックバンドの有望株であるアレキサンドロスが出ていた。
彼らはオアシスを始めとするUKロックがもともと好きだということだったが,その魅力は「侘び寂び」に尽きると語っていた。
このやりとりを観ている時にふと,ゴリラズの音楽に感じる心地よさの要因が,「侘び寂び」にあると気付いたのだ。
ヒップホップなのに,そこには「侘び寂び」がある。
だからこそ,私にも受け入れることができたのだ。
そして,ゴリラズがロックファンにも支持を広げた一つの要因でもあったのかも知れない。
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面白いなと思うのは,今回のように何気なくテレビを観ている時に入ってくる情報から,既存の価値観に紐付けされて,自分の中で新しい価値観が生まれてくる体験。
そういう気付きが,人生を豊かにしていく気がします。
何だか大げさな話になっちゃったけど。
今年も,そんな気付きを大切にする一年にしたいなあと思います。
では,よい一日を!