音楽と服

音楽と服について好き勝手に語ります

結局,ストロークスとは何だったのか?

ベック,レッチリ,プライマルスクリーム,アンダーワールドジェイソン・ムラーズノエル・ギャラガー…。

日本人なら,グレイプバインサカナクションスピッツ…。

 

今でも最新作が出るたびに,すぐにCDを購入して聴きこむアーティストは多くいる。

(気づけば20年,30年戦士ばかりになっているが)

 

中でも,特に私が最新作を心待ちにしているバンドが,ザ・ストロークスだ。

 

ストロークスに関しての記事は過去にも書いているが,ファッションのことが中心で,音楽性については深掘りしてはいなかった。

sisoa.hatenablog.com

 

ザ・ストロークスは,2001年に発表したデビューアルバム「イズ・ディス・イット」を世界中でヒットさせ,世にガレージロック・リバイバルなるムーヴメントを巻き起こしたバンドとして知られる。

 

2000年代前後と言えばロックは死にかけていた。

 

パリからはダフトパンクが出てきて,「ワン・モア・タイム」で世界中を躍らせた。

アメリカではリンプビズキット,Kornらラップ・メタル勢が隆盛を極めていた。

レディオヘッドトム・ヨークは「ロックなんてゴミ音楽だ。」と吐き捨てた。

 

そのような時代に,彗星のごとく現れたのがザ・ストロークスだ。

彼らの音楽はシンプルなギターロックだった。

しかし当時は逆に,それが新鮮だったのだ。


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ヘヴィーなギターソロが映えるニック・ヴァレンシのスタイルに,小技の利いたアルバートハモンドJrのリズム・ギター,個性あふれる二人のギタリストを支えるベースのニコライに,ドラムのファブという盤石のリズム隊。

そして,作曲面などバンドの中心を担うボーカルのジュリアン・カサブランカス。

 

身も蓋もないが,YMOのスネークマンショー的に言うと

「いいものはいい。」

ことに改めて気づかせてくれたのが,このストロークスの偉大さだ。

 

世界中の音楽好きが「やっぱギターロックって格好いいね!」と再確認したのだ。

で,どうなったのか?

後進のバンドがどんどん出てきた。

カイザー・チーフス,ザ・クークス,ザ・クリブス,ザ・ビュー…。

彼らに影響を受けたバンドは数知れないのではないか。

 

2001年,ストロークスのデビューによって始まったガレージロック・リバイバルは2000年代が終わるころまでは続くことになる。

 

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以上が一般的に語られるストロークスの功績だ。

こんな話は別に私でなくても説明できるが,私が本当に語りたいのは「その後」の話だ。

 

ストロークスは,自らが巻き起こしたムーヴメントが終焉する2000年代末までに3枚のオリジナルアルバムをリリースしている。

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2作目の「ルーム・オン・ファイア」でその人気を不動のものにし,3作目の「ファーストインプレッション・オブ・アース」ではより厚みを増したギターサウンドフジロックにもヘッドライナーで来日。早くも「大御所感」を漂わせ始める。

 

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ところが,2010年代に入ってから,つまりガレージロック・リバイバルムーヴメントが終焉した後ぱたりと表舞台から姿を消してしまうのだ。

 

音楽活動を停止していたわけではない。

2011年には4作目「アングルズ」を,2013年には5作目「カムダウン・マシーン」をリリースしている。

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しかし,この2作は事前アナウンスもほとんどなく,メンバーによるメディア露出もほとんどない。

つまり,ろくにプロモーションがされないままのリリースだったのだ。


この2作に関しては,批評家の間でもあまり語られることはない。


1st,2ndは別格として,私がストロークスディスコグラフィー中で最も聴き込んだのが4作目の「アングルズ」だ。


このアルバムでは,2曲目「アンダーカバー・オブ・ダークネス」の秀逸さが群を抜いている。

イントロでは骨太なニックのギターソロ。

AメロからBメロに移るあたりの,アルバートハモンドJr.の小刻みなギターパート。

このバンドはやはり,この二人のギタリストが形作る音世界が最大の魅力だ。


普段全くストロークスを聴かないうちの妻でさえ,この曲を聴いたときに

「お洒落な曲やね。」

と呟いていた。


これは私見だが,妻の言う「お洒落さ」の一因はアルバートリズムギターにあると思う。

決して表には出てこないが,「これぞストロークス」というサウンドを完成させるのに,彼のギタープレイは最も象徴的なマスターピースであると言える。


5作目「カムダウン・マシーン」では「ワン・ウェイ・トリガー」という曲でディスコ風アレンジも聴かせてくれた(変化球だが結構好き)が,「オール・ザ・タイム」など王道のロックナンバーは健在だった。


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自らが切り拓いたガレージロック・リバイバルというムーブメントが終わりを告げたとき。

彼らはどんなことを思ったのだろうか。


ベックのように,時代の移り変わりと共に自らの音楽性も巧みに変化させて(しかもそれをしっかり自分のものにしている!)サバイヴするアーティストもいる。

しかし,ストロークスは恐らくそのようなタイプのバンドではない。


彼らがデビューから一貫して続けていること。

それは,ギターロックを鳴らし続けることだ。


彼らはガレージロック・リバイバルの旗手かも知れないが,それ以前にギターロックの魅力に取り憑かれた少年たちだったのだ。

そして,多分今もそれは続いている。


2020年に7年ぶりの彼らの新作が届いた。

「ザ・ニュー・アブノーマル」と銘打たれたそのアルバムには,いつもと変わらない最高のギターロックがあった。


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「本物は続く。続けることで本物になる。」

という格言がある。


彼らがいつまでバンド活動を続けるかは分からない。

最早音楽シーンの本流には戻らないかも知れない。


それでも,彼らの新作を心待ちにしている。