音楽と服

音楽と服について好き勝手に語ります

これまでの10年,これからの10年~ニュー・オーダーの2枚のアルバムから考えたこと~

朝から仕事をしながらニュー・オーダーを聴いていた。

 

ニュー・オーダーはキャリアの長いバンドなのだけど,CDは4枚しかもっていない。

2005年に出た「Wating for the siren's call」と2015年に出た「Music Complete」,それに94年のベスト盤とそのリミックス盤だ。

 

彼らの経歴を簡単に記しておくと,前身バンドのジョイ・ディヴィジョンは1970年代後半,ポストパンクムーヴメントに沸くイギリスで人気を博したが,ボーカルのイアン・カーティスの自殺によって解散。

その後,元メンバーのバーナード・サウナー,ピーター・フック,スティーヴン・モリスの3人のよって結成されたのがニュー・オーダーだ。

 

1980年代にシンセサウンドを取り入れたアルバムを立て続けにリリースし,一時代を築いたという彼らの歴史も,1983年生まれの私からしたらベストアルバムなどで伺い知ることしかできない。

 

しかし今回,久しぶりに,というか初めてまともに彼らが約6年前にリリースした「Music Complete」を聴いてみて,その歩みと自分自身の20代~30代の歩みが交錯したような感覚を覚えた。

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だから,ディスクレビューというよりは徒然なる雑記,といった感じです。

 

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「Wating for the sirens call」は,私が大学4年の時にリリースされた。

当時はガレージロック・リバイバル全盛で,ストロークスの影響を受けたギターロックバンドがイギリスを中心に世界中から出てきた。

 

ニュー・オーダーもそうした潮流を意識していたのか,十八番であるシンセ・サウンドを封印し,ギターロック寄りの楽曲が多い構成となっている。

 

私自身の人生で一番音楽を聞いていた時期とも重なる。

 

暇を見つけては大学の図書館に置いてあった「ロッキング・オン」のバックナンバーを読み漁った。

 

タワレコに足を運んではオアシス,ブラーらブリットポップ勢をはじめとして,ビートルズストーンズコステロらロックレジェンドから,アンダーワールド,ケミカルブラザーズなどダンスロック,エレクトロ勢まで幅広く聴くようになった。

 

そんな私の大学生活最後の年にアルバム「Wating for the siren's call」はニュー・オーダー4年ぶりのアルバムとしてリリースされた

 

 このアルバムで一番聴いたのは「KRAFTY」だろう。

ニッサンセレナのTVCMでもよく流れていたので,聴いたことがあるという方も多いかも知れない。

 


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 この曲に関するエピソードで衝撃的だったのは,日本語詞バージョンをボーカルのバーニー自身が歌っていること。

さすがに発音は変てこだけど,聴いてると和むので好きです。

しかもこの日本語詞を書いたのはアジカン後藤正文。凄いですね。

 

「KRAFTY」日本語詞バージョンは,国内盤のボーナストラックに収録されている。

 

ただ,久しぶりにCDを棚から出してこの曲を聴きながら,歌詞カードを読んでいると,オリジナルバージョンの和訳は結構シリアスなことが書かれていることに気づいた。

 

ある人間は夜明けとともに起き

遅刻しないように仕事へ出かけないといけない

街路を疾走する車の中でハンドルを握っている君

こんな生き方をするはずじゃなかった

でもそれが毎日の糧を得るために君がやらなきゃならない方法

それがいま僕らが生きているこの世界の仕組み

でもそれが君の目的地だったのか?

それが本当に君のやりたいことだったのか?

「KRAFTY」より

 

うーん,考えさせられますね。

通勤電車から降りて職場まで向かう道すがら,毎朝のように

「このままずっとこれを続けるのか?俺?」

と自問している自分がいる。

 

「それがいま僕らが生きているこの世界の仕組み」

 

そうなんだ。

 

働いて糧を得る,というのは,生きる上で絶対的なことではなくて,現時点での社会的な一つの仕組みでしかない。

 

明日死ぬとして,後悔せずに

「いい人生だった。満足だ。」

と言って死ねるのか?

 

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20代の後半は,24歳のころ読んだある本の影響で,

「30で死ぬつもりで生きよう。それまでに今の仕事でやりたいことは全てやるんだ。」

と勝手に考えていて,仕事をしまくった。

日が変わるまで職場に残って仕事を続けるのもざらだった。

 

一人暮らしだったし,ほかにやることもなかったんで,好きなだけ仕事ができた。

やればやるだけ評価もされたので面白くもあった。

 

その結果,今の仕事でやりたかったことはほとんど達成してしまった。

 

結婚し,子供ができて30を過ぎ,今はむしろ死ぬことではなく「よく生きる」ことを考えて行動しなければならなくなっている。

 

時間の制約が増え,昔ほど仕事に時間をかけることができなくなった反面,求められる仕事の質は高くなり,仕事量はそれに比例するように増え,うまくいかないことも多くなった。

勿論今の仕事でやりたいことはまだ残っている。

しかし,自分がこれからやりたいことは,ほかにもあることは確かだ。

 

20代前半で聴いていた曲も,いま改めて聴くとその歌詞の真意がリアルな現実とともに実感として響いてくる。

 

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そして,「Wating for the siren's call」から10年後にリリースされた「Music Complete」。

買ってから1,2回聴いただけでCD棚に眠っていたが,今回初めてまともに聴いてみた。

 

 

なるほど,ギターロックの曲もあるが,シンセサウンドを全面的に押し出すナンバーもあり,ベスト盤に収録されている楽曲群の雰囲気に近い。

 

改めて聴き直すと,イギー・ポップがゲストで参加している「Stray Dog」で聴けるクールでメロディアスなサウンドが新鮮。

イギーのたまらなく渋い声と,ダンサブルなサウンドが見事な融合を見せる。

 

そして,最後の「SUPERHEATED.」では何か吹っ切れたようなポップな風が吹く。

なぜ買ったときに気づかなかったのだろう。

この曲,とんでもない名曲でした。

 


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君は人生を取り戻したい

でも僕は泥棒じゃない

君は僕に告げた おしまいだと

僕の前から姿を消すと

 

もはや 終わってしまった

もはや 終わってしまった

「SUPERHEATED.」

 

「僕」の前から姿を消した「君」とは,死別した旧友イアン・カーティスか。

それとも,2009年に脱退した長年の盟友・ピーター・フックか。

 

友との死別,別離を経てニュー・オーダーは10年ぶりに復活した。

 

「終わってしまった」

とバーニーは歌っているが,そこに暗さはない。

 

全てを受け入れることで,さら前に進もうとしている。

 

生きていれば後悔の一つ二つはあるだろう。

それでも前を向くしかない。

 

ふりきっていく強さを見た気がした。

 

これからの10年が,少し楽しみになった気がした。

ありがとう,バーニー。