日本人が好きなロック,好きではないロック
先日,演歌と西洋音楽について考えたことを記事にしたのだけど,あれから歌謡曲っぽいメロディーを日本人が好むという持論を昔誰かがしきりに展開していたことを思い起こしていた。
それで,思い出したのは渋谷陽一だったということ。
かなり前の「渋松対談」の中でそんな話題に触れていたなと。
部屋の本棚から「渋松対談」(赤盤)を引っ張りだして読んでいると,やはりそんな記述があった。
渋谷:日本におけるクイーン人気って独特で,ある意味で一番ツボにはまったバンドだったよな。
松村:なんだよツボって。
渋谷:まずメロディー。この分かり易さは破格じゃないか。しかも日本人が好きな情緒的なメロディーが多いから,聴いていて気持ちがいいわけよ。今回の来日でも,客がほとんどの歌を一緒に歌うわけ。あれは凄い。俺の隣の親子は,子どもなんか小学校低学年だと思うけど,一緒に歌ってたぞ。
松村:「ボヘミアン・ラプソディ」とか,歌うのかな。
渋谷:歌うか。「ウィー・ウィル・ロック・ユー」とか「ウィー・アー・ザ・チャンピオン」だけど,他のバンドじゃあり得ないぜ。
松村:オアシスなんかもカラオケ仕様だよな。
渋谷:そうそう。ただメロディーの構造はマニックスあたりがクイーンに近いよな。
松村:他のツボは?
渋谷:音の厚み。日本人は音のスカスカした音楽が駄目で,とにかく空間をべったりと音で埋めてないと満足しないわけ。その点クイーンの音作りは,ブライアン・メイのギターを中心に,思いっきりべったりしているから快いわけよ。重い布団だと何だかあったかい感じがするじゃない。
松村:そういう昭和な比喩は通じないと思うぜ,今の若者には。
この記事を読んだ時に,「なるほど!」と手を打った記憶がある。
当時,確かキムタク主演の月9枠で,アイスホッケーをやるドラマがあったのだけど,そのオープニングや作中でガンガンかかっていたのがクイーンの「ボーン・トゥー・ラブ・ユー」なのだ。
あの時は本当にお茶の間レベルでクイーンが再ブレイクしていくのを,私も肌で感じていた。
本当に,世間の受け取り方が「洋楽」という感覚ではなく,普通にJPop並のキャッチーさであっという間に浸透していったのを覚えている。
そうこうしている間に日本ツアーが始まり,ポール・ロジャースをボーカルに据えた新生クイーンのステージは各地で大歓迎を受け,最終的にはアルバムまで出してしまった。
この一連の狂騒劇を経て,改めて日本におけるクイーンの人気の高さを思い知らされた。
たしかに渋谷陽一が言うように,メロディーのキャッチーさと音の厚みにかけては,クイーンの右に出るバンドはいまい。
私個人的には,実はあまりクイーンの楽曲を好んで聴くほうではない。多分声が好みではないのだと思う。フレディ・マーキュリーはなんも悪くない。好みの問題だ。
それで,これは多分日本特有の現象だと思うけど,ロックが好きだと言う話をすると,一時期よく聞かれたのが
「ロック好きなんだ!じゃあ,クイーンとか好き?」
みたいな。
「ビートルズは?」ではなく
「オアシスは?」でもなく
「クイーンは?」となるのだ。
どうも,一般的な認識として,日本ではロックバンド=クイーンという図式が長いこと成り立っていた感がある。
私はそう問われた時には,
「クイーン…聴かないことはないです。」
と微妙な反応をするほかなかったのだが,渋谷がもう一組挙げているマニックス(マニック・ストリート・プリーチャーズ)は結構好きで,アルバムも初期から最近のものまである程度揃えている。
マニックスの音にも厚みがあるのだが,クイーンと違うのは,見た目も決して華があるわけではないけど,地に足がついたロックを鳴らしているな,という印象があること。
不器用だけど,とにかく前に進もうとする彼らの姿勢が好き。
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ここまでは,日本人が好きなロックについて渋谷陽一の持論を基に紐解いてみたが,では日本人が好きではないロックとは何か。
それについても渋松では熱い議論が繰り返されている。
渋谷:(中略)とにかくクイーンは日本人のツボにはまりまくったんだよ,フーの逆だな。
松村:確かに。フーって日本でも人気が異常に低いよな。
渋谷:世界的にはビートルズ,ストーンズと並んで三大ロック・バンドと言われてるのに,日本では全然じゃないか。クイーンのツボと真逆なんだよ。まずメロディーが情緒的でなくて,ボキボキしてるのが駄目なんだよ。
松村:何だよボキボキって。
渋谷:そんな感じじゃん。すごくポップで素晴らしいんだけど日本人的じゃないんだよ。それに音もスカスカしてるじゃん。
松村:してないだろう。ものすごくぶっといじゃないか。
渋谷:そうなんだけど,音と音の間に空間があるんで,それが重い布団にならないんだよ。
松村:お前の布団説なんてどうでもいいけど,昔からフーって日本人受けしなかったよな。
渋谷が言うには,ザ・フーの音は日本人の好みに合わないらしい。
確かに,さっきのやり取りなら
「ロック好きなの?じゃあ,クイーンとか好き?」
「いや,ザ・フーが好きっす。」
「・・・・・・。」
会話が続かないであろうことは間違いない。
「誰それ?」という反応がくることは請け合いで,悲しいことに「名は体を表す」(The Who)状態である。
でも,私はクイーンよりもザ・フーの方が好きだ。
確かにザ・フーの鳴らす音はボキボキしていて,重たい布団どころか隙間だらけなのだけど,何というかわざとらしい感じがなくて非常に男臭いのだ。
私は結構,「侘び寂び」で音楽の好き嫌いを決めるところがあるのだけど,「侘び寂び」感で言えば,ザ、フーの圧勝だと思う。
ザ・フーの曲がドラマのタイアップに選ばれて,お茶の間レベルで大流行!なんてするわけないけど,もう少し知られてもいいのじゃないかと思う。
でも,日本人が好まないロックとして,音と音の間に隙間があるバンド…というのはわからないでもない。
ストレートで歌謡曲的な節回しで人気を博したオアシスと,英国調のちょいクセのある曲で売り出したブラーは,本国イギリスでは人気を二分したが,日本においては圧倒的にオアシスの知名度が高いのも,そこらへんに要因があるのかも知れない。
ザ・フーもブラーもいいバンドですよ。
本当,いい曲もたくさんあるし。
もっと流行らないかな。
日本人が好きなロック,好きではないロックについての話でした。
最近は日本の音楽シーンでもロックが復権してきている感がある。
どんな形であれ,シーンが盛り上がることは喜ばしいこと。
クイーンやザ・フーらに影響されたバンドもあるはず。
次の世代のバンドにも期待です。