音楽と服

音楽と服について好き勝手に語ります

日本人は四つ打ちのビートが好きな民族なのです。なぜなら

私はこれまで,フジロックなどのフェスも含め,洋邦問わず多くのアーティストのライブに何回も足を運んできた。

 

数が多いので,当然心残りなことはいくつかあるのだが,その中でも一番の後悔が2008年のフジロックだ。

 

その後悔とはこの年,二日目のヘッドライナーとなった,アンダーワールドのステージを「観ない」という選択をしたことだ。

 

自分自身の判断ではあったが,正確には「判断ミス」と表現したほうがよさそうだ。

 

この年のフジロックで,私の一番の目当てはプライマルスクリームだった。

このプライマルが,二日目のトリ前の登場となったので,まだ24歳と若かった私は,当然のことモッシュピットの最前線で飛んだり跳ねたりして汗だくになり,思う存分楽しんだ。

 

その後,人でごった返すモッシュピットを脱出してステージ後方の芝生に腰掛け,すっかり湿気った煙草に火をつけて一服していると,ステージではヘッドライナーのアンダーワールドが演奏を始めていた。

 

最初の曲は当時の最新アルバム「Oblivion with Bells」から「クロコダイル」。

非常に抑制のきいた内省的な曲ではあるが,規則正しい四つ打ちのビートが火照った身体に心地よい。

 

 

ただ,モッシュピットで1時間以上跳ね回った後だったので,汗でTシャツの背中はベタつき,脚元は泥で汚れていた。

 

アンダーワールドフジロック参戦に向けてCDを数枚買い,予習していたので,当然残って聴いていきたかったのだが、この時の気持ち悪さは如何ともし難かった。

 

キャンプサイトの入り口に,「苗場の湯」という入浴施設がある。

キャンプサイト利用者は,小川や手洗い場で水浴びくらいならできるが,風呂に入ったりシャワーを浴びたりしたいと思うなら,この「苗場の湯」を利用するしかない。

 

ところが,普段はかなり行列になっていて,1時間以上は並ばないといけないこともザラであった。

 

しかし,ヘッドライナーが演奏している「今」なら,利用客は少ないかも知れない。

そんな淡い期待もあった。

 

ということで, 私は二曲目の途中あたりで芝生から腰を上げ,「苗場の湯」へと向かったのだ。

 

私の目論見通り,いつもより並んでいる人数は少なかった(それでも40分並んだが)。

そしてまた,これが気持ちよかったのだ。

 

大満足で「苗場の湯」を後にし,鼻歌を歌いながらキャンプサイトへ引き上げていると,下の方(グリーンステージ)から大歓声が聞こえる。

 

アンダーワールドのステージがクライマックスを迎え,キラーチューン「ボーン・スリッピー・ナックス」が投下されたのだった。

 

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アンダーワールドの「ボーン・スリッピー・ナックス」と言えば,映画「トレイン・スポッティング」の挿入歌としてご存知の方も多いだろう。

 

イントロの漂うようなシンセ・サウンドから,徐々に16ビートのハイハットが入ってくる。

アップテンポなビートにバスドラが加わり,高揚感は2分前後で一つの頂点を迎える。

 

この「ボーン・スリッピー・ナックス」をはじめ「レズ」「カウガール」など,四つ打ちのビートの名曲で90年代半ば頃から日本でも広く認知されるようになったアンダーワールドは,フジロックなど日本のフェスにも度々出演を果たしてきた。

 

その影響力は日本のアーティストにも広く浸透し,つい先月にもサカナクションとのダブルヘッドライナーでのライブが予定されていた(サカナクション山口の体調不良による延期が発表)。

https://www.creativeman.co.jp/artist/2022/07underworld_sakanaction/common/img/key2.jpg

 

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「日本人には四つ打ちのビートが好きなDNAが備わっている」との持論を著作にて綴っているのが,「ロッキング・オン」編集長の山崎洋一郎

 

つまり,リズムや子音の切れ味で世界をザクザクと切っていくというよりは,メロディや母音の流れで世界をそのまま受け入れるような感覚を日本人は持っているのです。それは日本人のほとんどが一定の場所に定住する農耕民族だったことと深い関係があります。その場所から駆り立てる気持ちにさせる音楽よりも,その場所に同化して受け入れる気持ちにさせる音楽の方がDNAや生活様式にあっていたのです。

山崎洋一郎「激刊!山崎Ⅱ」

  

私が四つ打ちのビートが好きなのは,この身体に農耕民族の血が流れているからなのか。

妙に納得してしまった。

 

私は普段クラブに出入りするような人間ではないが,フジロックに行けばダンスアクトに限らず,ベックやレディオヘッドなどのロック・アーティストの時にも,つい踊ってしまう。

 

所謂縦乗りでなく横乗りのビートなのだけど,特に四つ打ちだとこれがきちんとハマるのだ。

 

気持ちよく踊れる。

まあ,本人的には気持ちよく踊っているつもりだが,傍目から見ると気持ち悪いことこの上ないだろう。

 

それでも,ハイネケンとセブンスターのメンソールがあれば最強だ。

 

なるほど,あの気持ち良さはDNAレベルの話だったのか。


08年のフジロックの後,改めてアンダーワールドの過去のアルバムを買い足していった私は,その深淵なビートの中毒になった。

そして,キラーチューンを連発した彼らのステージを「観なかった」己の判断を一層悔いることになる。

 

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話は変わるが,サカナクションというバンドのコンセプトは,「ロックとダンスと文学の融合」らしい。

 

私がサカナクションを聴くようになったのはここ2,3年のことだが,初めて彼らの楽曲を聴いたときに感じたビート感は,他の日本人バンドにないものだった。

 


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今振り返ってみると,あのビートはおそらく,アンダーワールドやケミカルブラザーズら海外のダンスアクトからの影響を色濃く受けたものだったのだろう。

そこにロックの切れ味と,文学的な抒情性をミックスさせて,彼らは唯一無二のバンドとなった。

 

sisoa.hatenablog.com

 

影響されるのも分かるよね。

だって,ケミカルもアンダーワールドも,聴いていて凄く気持ちがいいんだから。

 

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最後にご紹介するのは,アンダーワールドの「Two Manth Off」。

 

一般的にはあまり知られていない曲ですが,ひたすら同じビートを刻み続ける快感がマジで中毒になります。

 

あと,MVでボーカルのカール・ハイドが雨の中びしょ濡れで歌い踊っているけど,私もフジロックではいつもこんな感じになっているのです。

 


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フジロックに置き土産があるとしたら,アンダーワールドのステージをもう一度観ること。


私がフジロックにカムバックするまでは,元気で活動を続けてほしいなあ,カールとリック。