最近,ケンドリック・ラマーのアルバムを聴いている。
ヒップ・ホップだけは,昔からどうも食わず嫌いしていたのだが,ここ数年のポップ・ミュージックの動向を見ていると,どうにもそこはスルー出来ないと思うようになったからだ。
デヴィッド・ボウイも,最後のアルバム「★」を作る時にはケンドリックの「トゥ・ピンプ・ア・バタフライ」にインスパイアされたらしいし。
それで,ここ数日聴いているんだけど,ヒップホップやラップやらのジャンルって,やはりリリックの意味や背景が分からないと,聴いててもよく分からないので,2010年代後半の「ロッキング・オン」を見返していたのだ。
そしたら,まだほとんど未読の一冊を見つけた。
2017年のアルバムトップ50の特集号だった。
トップ5の顔ぶれはこんな感じ。
2位:ケンドリック・ラマー「ダム」
3位:ベック「カラーズ」
4位:ノエル・ギャラガー「フー・ビルド・ザ・ム-ン?」
5位:ウルフ・アリス「ヴィジョンズ・オブ・ア・ライフ」
うーん・・・。やっぱり覚えていない。
読んだ覚えがない。
この号を捲っていくと,ベックのインタビュー記事が載っていた。
なんとこれも未読だった。
過去記事でも何度か紹介しているように,私はベックというアーティストに特別な愛着を持っている。
そんな私が読んでいないのだから,本当に買っていたことすら忘れられた号だったのだろう。
このベックのインタビューを読んでいたら,ポップ・ミュージックにおける彼なりの捉え方が分かりやすく語られており,非常に興味深い記事だった。
ということで,ケンドリックのレビューはまた今度(笑)。
このインタビュー記事で,ベックが語っているのは以下のような内容だ。
ぼくとしてはロックを傍流にしておくつもりはないんだよ。みんなはあっちに行ってるよ,あっちはポピュラーやラップ,ヒップホップ,EDMだよ。じゃあ,俺たちはここでかくれてようかって(笑)。そんなのはぼくは嫌なんだよ。
(中略)それにポピュラー・カルチャーとしては,ロックは必要なはずだから。だけどそのためには斬新なアイディアが必要だし,アートが必要だし,オリジナリティが必要で,それだけのものを持ってメインストリームに身を投じて変えていかなきゃいけないんだよ。そういうことを実現してきた時が,音楽が一番刺激的だった時なんだよ。たとえばポピュラー・カルチャーの頂に達しながら,アヴァンギャルドの最高峰にも達してみせたビートルズみたいにね。
interview by 高見展 「rockin'on」2018.1
ベックがこの記事で明かしているのは,ポップ・ミュージックの本質ではないかと思うのだ。
つまり,
「斬新なアイディアが必要だし,アートが必要だし,オリジナリティが必要で,それだけのものを持ってメインストリームに身を投じていかなきゃいけない」
ということだ。
これって,僭越ながらこのブログ「音楽と服」の基本コンセプトと,すごく近いのではないかと思うのだ。
アーティストが紡ぎ出す「音楽」と,そのイメージを伝えるファッション,「服」。
その変遷や関連性を紐解いていくのって,なんだか面白そうじゃない?と思って始めたブログなのだから。
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先述の記事は,2017年のベックの作品「カラーズ」のためのインタビュー記事だ。
この「カラーズ」のデラックスエディションのDVDでは,日本の歌手Daokoとコラボしてシングル曲「アップ・オール・ライト」を歌う様子が特典映像としてついている。
そこで,ベックは黒のハット,黒のスーツに花柄黒地のシャツとバリバリにキメた格好ながら,青のワンピースのDaokoと共に飛び跳ねたり手拍子したりしながら乗り乗りで歌うのだ。
こういうコラボっていうのは,バラードでしっとり演りました,ていう感じが多いのだけど,「Up All Light」はアップテンポでコーラスとのシンクロが非常に難しい曲。
恐らくだけど,かなりバンドとのリハも重ねたんじゃないだろうか。
Daokoの透明感のある歌声が,この曲のドラマ性をよく惹きたてている。
ベックというアーティストの感性からすると,このようなコラボにしても,自分や相手の見せ方などもかなり考えているのだろう。
そして,彼はこのアルバム「カラーズ」のジャケットアートワークも,自分自身で基本のデザインを考えていたというから驚いた。
「ポピュラー・カルチャーには,斬新なアイディア,アート,オリジナリティが必要」
と彼自身が語っていたように,アートワークも含めた総合力で勝負するという頭があるからだろう。
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だからこそ,私はベックのことを「アーティスト」と呼びたいのだ。
「ミュージシャン」ではなく,「アーティスト」。
ベック自身も言及しているが,1960年代後半のビートルズも,実験性と大衆的なポップを追究し続け,最高沸点を記録し続けた。
その最たる作品が,この「リボルバー」だと思う。
印象的なアルバムアートワークは,メンバーの旧友クラウス・フォアマンによるもの。
最初の曲「タックスマン」は,カッティングギターとブリブリのベース音がいかしたナンバーで,ジョージ作。
最後の曲「トゥモロー・ネヴァー・ノーズ」は逆回転されたギターやドラム音がレコーディングで使われており,実験的でありながらポップとしての完成度の高い奇跡のような曲だ。
ビートルズのような先達の作品は,勿論ベックの創作活動においても大きな影響を及ぼしていることだろう。
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ベックの「カラーズ」は,おそらく2010年代に私が一番聴いたアルバムだ。
当時私は職場まで車を運転して通っていた。
朝4時過ぎに家を出ていたが,この時間は当然まだ道路は薄暗い。
毎朝「カラーズ」をかけて口ずさみながら運転していると,20分ほどで職場に到着する。
帰りは少し込むが,30分前後で自宅に着く。
行きと帰り合わせて50分前後なわけで,ちょうどアルバム「カラーズ」を聴き終わるくらいなのだ。
つまり,毎日このアルバムを1回は通しで聴いていたことになる。
良質なポップ・ミュージックのアルバムっていうのは,何回か繰り返し聴いた後に必ず
「これ,めちゃくちゃいいじゃん!」
と思えるブレイクポイントがあって,飽きるまではしばらく聴き続けることになる。
こういうアルバムって,私の人生においてもそう多くはない。
ストーンズでは「メインストリートのならず者」,「スティッキー・フィンガーズ」。
オアシスなら「モーニング・グローリー」。
ストロークス「イズ・ディス・イット」。
錚々たるロック・レジェンドのアルバムとも張れるくらい,よくできた作品だと思っている。
最後に,「カラーズ」の中でも最もエッジが立っている一曲をご紹介。
シンプルなメロディーラインだけど,その分耳に残る曲です。