1989年のThe Stone Rosesは,現在のトレンドの源流である説
誰しも,これまでの人生における「忘れられない一枚」があるのではなかろうか。
私にとってのそれは,ザ・ストーン・ローゼズの「 THE STONE ROSES」である。
このアルバムの魅力を言葉で表現するのはなかなか難しい。
音の輪郭ははっきりしていないし,ボーカルが際立って上手いわけではない。
それでも,このアルバムには魔法が宿っていると私は思っている。
ところで,久しぶりにこの「THE STONE ROSES」を聴きながらブックレットを眺めていると,あることに気づいた。
「メンバーの服,今っぽくない?」
ということだ。
それが上の写真なのだが,これは1989年にリリースされたアルバムだ。
ボーカルのイアン,ギターのジョン,ベースのマニ,ドラムのレニのコーディネートやサイズ感が,現在のトレンドに非常に近いように感じられたのだ。
当ブログでは,これまで年代ごとのアーティストのファッションと時代性との関連を紐解いてきた。
しかしヒッピームーヴメントや,70年代のストーンズのファッションなどと現在のトレンドを比べると,さすがに隔世の感がある。
ところが,「THE STONE ROSES」のブックレットに写ったメンバーの装いからは,あまり古臭さを感じなかったのだ。
どうだろう,感覚的なものかも知れないので,実際に現在のモデルと比較して検証してみる。
比較対象は,雑誌「メンズ・ファッジ」の今年の号のモデルだ。
1 ポロシャツとイアン・ブラウン
まずは,ポロシャツを比較してみる。
上が今年の「メンズ・ファッジ」,下が1989年のイアン・ブラウンだ。
二人ともポロシャツを着ているが,まずは襟元に注目。
どちらも,襟が立ったタイプではなく,ぺたんと寝ているタイプ。ルーズになり過ぎないよう,一番上のボタンまで締めているのも共通点。
次に,サイズ感に注目。
ファッジのモデルも,イアンも袖の長さは肘のあたりまで。
ゆったりした丈で,ルーズなシルエットでありながらも清潔感を失っていないあたりも共通していると言えそう。
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2 スウェットとジョン・スクワイア
次に,ギターのジョン・スクワイアが着ているようなスウェットで比較してみる。
上がメンズ・ファッジのモデル。
下が,ローゼズのギタリスト,ジョン・スクワイア。
二人の着ているスウェットは,おそらく生地等は違うだろうけど,大きめのサイズ感でゆったり着ているのはポロシャツと同じ。
スウェットにもポロシャツにも共通して言えるのは,ゆったりとしたサイズ感だけではない。
ルーズな中に清潔感を失わない着こなしも同じ。
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1970年代後半,イギリスが発端となりパンクムーヴメントが巻き起こった。
あらゆる権力に「NO」を突きつけたパンクの精神は,当時少年だったストーン・ローゼズのメンバーの心を動かした。
ジョン・スクワイアは後のインタビューで,クラッシュのジョー・ストラマーに憧れていたことを告白している。
同時に,成功を収めたロック・バンドについては,その槍玉に上がっている。
以下は,「ロッキング・オン」に掲載されたインタビュー記事だ。
「マニが加わった時,俺たちはユニットになったんだよ」とイアンは語る。
「これで俺たち対世界っていう構図になったんだ。あの頃キッチンでフライドポテト用の芋を切っててU2がラジオで流れてたのをよく覚えてるよ。あの頃,U2は世界で最も成功してるバンドだったんだ。でも,本当に尊大で虚しい音にしか聴こえなかった。だから,俺は思ったよ。俺たちはあいつらよりルックスはいいし,あいつらより音もいいし,俺たちはあいつらよりいいんだってね。
text by Paul Moody/Translation by 高見展 「rockin'on」2012.1
ベースのマニがバンドに加入したのは,1987年。
U2の歴史的名作「ヨショア・トゥリー」が出るのが87年なので,この年はまさにキャリアの頂点に達した時期であると言える。
煌びやかなステージ衣装を着て歓声を受ける「ロック・スター」にNOを突きつけ,彼らは普段着でステージに上がった。
そして,ライブでは自分たちにはスポットライトを当てず,ひたすら観衆を照らし続けた。
イアンはステージから叫んだ。
「これからは,オーディエンスの時代だ!」
イアン・ブラウンはこき下ろしていたが,その後時代の荒波をサバイヴしたのはU2のほうだった。
ストーン・ローゼズはどうなったか?
94年に2ndを出した後に解散,2012年には再結成して来日も果たしたが,その後2017年には2度目の解散。
私も2012年のフジロックで,彼らのステージを観ることができたが,ローゼズの魔法は彼らの最初のアルバム「THE STONE ROSES」にのみ宿っていることを再確認しただけだった。
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それでも,「THE STONE ROSES」と出会っていなかったら,私はUKロックにそこまで入れ込むことはなかっただろう。
オアシスのアルバムからは,ロックンロールが与えてくれる刺激,奔放さを知った。
ザ・ストーン・ローゼズのアルバムからは,ロックンロールが持つ中毒性を知った。
酒も煙草も要らない。
マニとレニが生み出すグルーヴ,ジョンのギター,イアンの歌が織りなす音楽は,素面でも全く別の世界へトリップさせてくれる。
それはあの時期,1989年前後にだけ彼らに与えられた「魔法」だったのだろう。
その「魔法」の一端をご紹介。
アルバム「THE STONE ROSES」収録の「エレファント・ストーン」。
アルバム通しで聴いてこそ伝わる彼らの魔法だが,この一曲でもマジックはかかっています。