音楽とコミュニケーション〜レッチリ"還ってきた夢食堂"に寄せて〜
発売日に行きつけのCD屋で買って以来,毎朝ずっと聴き続けている。
レッチリの,「リターン・オブ・ドリーム・カンティーン(還ってきた夢食堂)」だ。
前作の「アンリミテッド・ラブ」がやや散漫な印象だったので,正直あまり期待していなかった。
で,結論から言うと,これがすんごくよかった。
個人的に琴線に触れたとかいう話ではなく,バンドとしてのエネルギーに圧倒されたと表現した方がいいだろう。
前情報では,よりファンク色が強まっているとのことだったので,初期(「ブラッド・シュガー・セックス・マジック」あたり)のラップ×ファンクな乾いたレッチリをイメージしていたが,そこはいい意味で期待を裏切ってくれた。
確かにファンク色は強いが,初期よりもぐっとメロディアスで,聴きやすい。
過去作で言えば,「ステイディアム・アーケイディアム」の「マーズ」に近いと思う。
今作「還ってきた夢食堂」は,ギタリストのジョン・フルシアンテが復帰して2作目になるが,彼の復帰についてベースのフリーが興味深いコメントを残していた。
「俺はジョシュのことを愛してるよ。素晴らしいミュージシャンというだけでなくて,素晴らしいサポーターだった。でも,ジョンに戻ってきてほしいと思ったのは,努力の必要がないコネクションが欲しいという想いがピークに達したからなんだ。
ジョシュとは作曲中に「どうしようか?」て話し合うことが多かった。でも,ジョンが戻ってきて,その繋がりが即持てた。話をする必要がないんだ。」
「リターン・オブ・ドリーム・カンティーン」ブックレットより引用
「ジョシュ」とは,ジョン不在の10年間を支えたギタリスト,ジョシュ・クリングホッファーである。
ジョシュ在籍時に制作されたのは2作品あって,「アイム・ウィズ・ユー」(2011)と「ザ・ゲッタウェイ」(2016)である。
どちらもよく練られた作品で,私は特に「ザ・ゲッタウェイ」はお気に入りだった。
デンジャー・マウスをプロデュースに迎え,音数を絞ってしっかり作り込まれている。
洗練されたアレンジが,「大人になったレッチリ」の魅力を伝えていた。
しかし,レッチリのメンバー(多分フリーとアンソニー)は,そういう音楽の作り方は性に合わないと思ったのだろう。
今年リリースされた2作品はどちらも,プロデュースを「いつもの」リック・ルービンに戻している。
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ところで,このジャケット裏に掲載されている写真を見てほしい。
密着度がすごいではないか。
フリーが語っていた,「話をする必要がない」という関係。
これって,レッチリというバンドにおいては最も大切な要素なのだということを,この新作を聴いて思い知らされた。
レッチリの生命線は「ジャム」なんだと,以前からフリーやリック・ルービンは語っていた。
「ジャム」とはすなわち,打ち合わせなしに即興で創り上げていく音楽だ。
私自身も2006年のフジロックで,フリーとジョンの凄まじいジャムを目撃している。
言葉なんて要らない。
音楽だけでいい。
いや,音楽だけだからこそ,表出する「凄み」がある。
予定調和でない何かが発露した時に,本物のケミストリーが生まれる。
それは,「作り込まれたもの」ではいけないのだ。
フリーとジョンの間には,言葉がなくても音と音,振動で伝わり合う確かな「コネクション」が存在しているのだ。
そこに,アンソニーの「言葉」,チャドの「ビート」が乗ると,レッチリは最強になる。
この「還ってきた夢食堂」は,聴いていてただただ心地よい。
4人がリラックスして,最高のクリエイティビティーを発揮しているのが伝わってくる。
還暦を過ぎた男たちがこれだけの作品を叩きつけてくる。
私はこの「4人」のレッチリを,これからも信じ続けようと決めた。
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ここからは余談。
これは,「ザ・ゲッタウェイ」(2016)のジャケット裏の写真。
若干,距離があるような気もしないでもない。
こちらは,「アンリミテッド・ラブ」(2022)のジャケット裏の写真。
こちらはかなり密着している。
まあ,「無限の愛」だからね。
というか,単に寝転がってる写真が好きなだけかも知れません。
以上,余談でした。