横山健の言葉から現在の世界情勢に思いを馳せる
先日テレビを観ていたら,ロシア国立バレエ団の来日公演の様子が報道されていた。
何でも,軍事侵攻を続けるロシアの現状もあり,公演に対して反発する声と「政治と文化は分けて考えるべきだ」という主張に分かれたようだ。
私もどちらかというと後者の考えなのだけど,このニュースを目にして,思い出した光景があった。
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横山健の一言
それは,2016年フジロックでのことだ。
この年,グリーンステージに横山健が出演していた。
横山健と言えば,ハイ・スタンダードのギタリストである。
インディーズの自主レーベルからアルバムをリリースし続け,若者を中心に支持を広げていった彼らの人気が爆発したのは2000年前後。
「メイキング・ザ・ロード」はインディーズとしては異例のミリオン(100万枚)を越える売り上げを記録した。
当時高校生だった私は,少ない小遣いをはたいて彼らのアルバムは全て揃えていった。
メロディアスでパンキッシュな彼らの歌と演奏には,若い私がロックに求めていた全てがあった。
勇気,熱量,哀しみ,情けなさ・・・。
そんなわけで,ハイ・スタンダードは私の青春なのである。
つまり,横山健は私の永遠のギター・ヒーローなわけである。
そんな健さんのステージを見逃すわけにはいかない。
そういうわけで,モッシュピットエリアの幾分後方から,ステージを眺めていたわけだが,演奏の合間に健さんが放ったMCでの一言は,おそらく一生忘れられない言葉となった。
確か,当時の日韓関係の悪化に伴った社会情勢に触れたMCだったと思う。
「俺は,中国でも韓国でも,政治はクソだと思っているけど,人は違う。人は好きだぜ。中国の人も,韓国の人もな。」
確かそんな内容だったと思う。
人と人とを結びつけるのが音楽なんだ,みたいなことを言っていた。
この健さんの言葉は,それ以来外国との関わりを考えたり,外国の人に接したりする時の私の矜持にもなっている。
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司馬遼太郎のロシア観
ところでロシアという国は,日本では「悪役」として報道されることが非常に多いという印象だ。
私は学生の頃,司馬遼太郎の「坂の上の雲」を読んで以来この国に関心を抱き,同じような音楽的・読書的趣味をもっていた友人と,ロシア帝政や地政学などについてよく議論をしていた。
ふざけて,その友人の誕生日に司馬氏の「ロシアについて」という新書をプレゼントをしたこともある。
この「ロシアについて」という本,実は自分では読んだことがなかったのであるが,先日本屋を散策していた時に偶然見つけ,15年ぶりに購入することにした。
今度は自分で読むためである。
司馬氏の本なのであくまで歴史的事実が主なのだが,これを読み進めていくと現在の世界情勢の中でのロシアの動きの根拠の多くが,その国の成り立ちに大きく関係していることが分かってきた。
まず,ロシアという国は帝政(ロマノフ朝)が出現するずっと以前から,モンゴル人による支配と剥奪が繰り返されてきた土地だったということ。
その歴史的背景を踏まえた上で,ロシア人の国民性として,司馬氏は以下のような見解を述べている。
外敵を異様におそれるだけでなく,病的な外国への猜疑心,そして潜在的な征服欲,また火器への異常信仰,それらすべてがキプチャク汗国(モンゴル人)の支配と被支配の文化遺伝だと思えてならないのです。
NATOによる包囲を異常に恐れて軍事侵攻に踏み切った今回の経緯も含め,核への執着など,現在のロシアの動きに共通する部分が見られる。
このような歴史的背景を目にすると,ウクライナ戦争へのロシアの一連の動きは,プーチン一人を政権から引きずり降ろすことで解決する問題ではなさそうに思えてくる。
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エマニュエル・トッドの視点
エマニュエル・トッドは,フランスの歴史人口学者だ。
今回のロシアの軍事侵攻については「第三次世界大戦はもう始まっている」という著書を発行し,自説を述べている。
彼は,国際政治学者ジョン・ミアシャイマーの言説を引用しながら,以下のような内容を主張している。
ミアシャイマーが出した最初の結論は,「いま起きている戦争の責任は,プーチンやロシアではなく,アメリカとNATOにある」ということです。
「ウクライナのNATO入りは絶対に許さない」とロシアは明確に警告を発してきたにもかかわらず,アメリカとNATOがこれを無視したことが,今回の戦争の原因だとしているのです。
(中略)
もう一つミアシャイマーの指摘で重要なのは,「ウクライナのNATO加盟,つまりNATOがロシア国境まで拡大することは,ロシアにとっては,生存に関わる『死活問題』であり,そのことをロシアは我々に対して繰り返し強調してきた」ということです。
非常に明快な指摘で,私も基本的に彼と同じ考えです。ヨーロッパを”戦場”にしたアメリカに怒りを覚えています。
エマニュエル・トッド「第三次世界大戦はもう始まっている」文藝春秋
エマニュエル・トッドは,アメリカには自国の「軍事ビジネス」のために,ユーラシア大陸の情勢を常に不安定化させては軍事介入を続けてきた過去の”実績”があり,日本やドイツもこのアメリカの動きに影響を受け続けていると主張している。
日本に暮らしていると,日米安保の関係かどうしてもロシアに対して批判的な報道が目につくが,事態はそんなに単純ではないようである。
どちらにせよ,多くの尊い命が奪われているのは事実だ。
一刻も早くこの戦争を終わらせることが急務であることは,間違いないのだけど。
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世界情勢は混沌としているけど,冒頭に紹介した健さんの言葉を忘れてはいけないと思う。
政治は政治。人は人なのだ。
「人」としての関りをもとうとすれば,その歴史や背景を知りたくなる。
世界情勢についても学びたくなる。
そうすれば世界の見え方が変わってくる。
人との接し方も,多分変わる。
だからと言って,ちっぽけな自分に何ができるか分からないけど,そうした価値観を自分の子どもや近しい人に伝えていくことはできる。
報道にとらわれて,一つの視点とか考えに凝り固まってしまうのが一番こわい。
自分で情報を取りに行って,自分の頭で考えないと。
ちなみに,世界史に関して私は,そういちさんの「そういちコラム」を購読させていただき勉強しています。
親しみやすいイラストと深い見識で楽しく学ぶことができます。
まだまだ学びが必要です。
日曜日の仕事机の上で,徒然なるままに考えたことを。