口笛吹いて歩こう
トイレに行く暇もないくらい雑務に追われ,退勤の打刻をしたのが18時前。
外に出るとすぐにマスクを外す。
こんなもん,息苦しくって,いつまでも付けていられない。
外の空気を肺一杯に吸い込む。
駐車場に停めていたレンタカーのスズキワゴンRに乗り込み,すぐにエンジンをかける。
次男三男を預けている保育園まで,私の職場からは道が混んでいると50分ほどかかることもある。
急がねば。
はやる気持ちとは裏腹に,休日前の道は帰宅する車でいっぱいだ。
信号待ちの時に,聞き流していたラジオ番組のナビゲーターが曲紹介をした。
「空に星が綺麗」。
どこかで聞いたことがある曲名だな,と思った。
続けて流れてきた,最初の歌詞を聴いた瞬間,分かった。
これは斉藤和義の曲だ。
歌っているのは斉藤和義ではない。
おそらく他のアーティストのカバーだと思うが,オリジナルは斉藤和義だ。
こちらのカバーは初めて聴いたが,原曲よりもパンキッシュにアレンジされていて,これはこれでなかなかよかった。
あの頃の僕らには 守るものなどなくて
夢ばかりこぼしては いつも暇を持て余してたね
うん。
そうだった。
夢とも愚痴ともつかぬことを,無責任に語り合っては,日々を食い潰していた。
過ぎ去っていった青春時代の映像がフラッシュバックする。
あの頃の僕ら今 人に頭を下げて
笑ってはいるけれど 目に見えない涙こぼれるね
口笛吹いて歩こう 肩落としてる友よ
誰も悪くはないさ きっとそういうもんさ
この曲を初めて聴いたのは,社会人になりたての頃だった。
その頃には正直ピンとこなかった歌詞も,不惑を前にした今となっては響きまくる。
理不尽なことも,「なんで自分が・・・」と思ってしまうことも,生きていたらいろいろあるけど,きっとそういうもんさ・・・と受け流せるようになれば,人生は少しばかり楽になることも分かってきた。
口笛吹いて歩こう。
ハンドルを握る手の向こう,暁の空には,一番星が見えた。