「踊れるロック」は熱くてクールだ~フランツ・フェルディナンドが切り拓いた道~
フランツ・フェルディナンドは,捉えどころのないバンドである。
代表曲「ドゥー・ユウ・ウォナ・トゥー」は日本でもCMタイアップされるなどお茶の間レベルでの認知度を誇る。
あれくらいUKのロック・バンドの曲がお茶の間レベルで浸透したのは,クイーンのリバイバル・ヒットを除けば,彼らが最後ではなかろうか。
だから「ポップなバンドか?」と問われれば,実はそうではない。
彼らのオリジナルアルバムを聴いていけば,意外にもダウナーな曲が占める割合が多いことに驚くはずだ。
「ドゥー・ユウ・ウォナ・トゥー」が,疾走感のあるキャッチーな曲なだけに,アルバム全体を聴くと,はじめは肩透かしを喰ったような感じになるかも知れない。
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私が初めてフジロックに参戦した2006年。
ヘッドライナーは,初日がフランツで,二日目がレッチリ,三日目がストロークスだった。
今振り返っても末恐ろしい面子だが,当時フランツはまだデビュー3年目の駆け出しで,ジェットやソニック・ユース,シザー・シスターズなど実績のあるバンドを抑えての初日ヘッドライナー抜擢に,結構騒がれていた。
2枚目のオリジナルアルバム「You could have it so much better」は前年に出ていて,フジロックに初めて行くことだし,聴いてみるかと思って私は行きつけのタワーレコードでそれを購入した。
当時独り暮らしをしていたマンションには,テレビは置いていなかった。
だから,親父から譲り受けたチボリのオーディオにこのフランツのCDを入れて,ずっと聴いていた。
1曲目「ザ・フォーリン」2曲目「ドゥー・ユウ・ウォナ・トゥー」は確かにキャッチーで聴きやすいが,以降の曲はなんだか暗くて,つんのめっているような印象がして,正直あまり好きになれなかった。
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なにせ,この年のフジロックは見どころが多すぎて,フランツにはそこまで期待していなかったのも事実だ。
初めての参戦である上に,いかんせんまだ若かった。
ペース配分も考えずに,初日グリーンステージの初っ端,フロッギング・モリー(アメリカのアイリッシュ・パンクバンド)からモッシュピットで騒ぎ過ぎたのもあって,日没後にはすっかり消耗していた。
フランツのステージが始める前に,いったんキャンプサイトに戻って体制を整え,開演前15分くらいにようやくステージに到着した。
さすがに開演前数分のタイミングだったので,モッシュピットには入れなかったが,ステージ正面の場所に陣取ることはできた。
ほぼ定刻通りに現れたフランツの面々。
フロントマンのアレックスは,真っ赤なシャツに真っ白のスラックスという装い。
フランツは,洒落た格好で洒落た音楽を鳴らすバンドなのだ。
私がこのライブで驚かされたことは,彼らはオーディエンスの喜ばせ方を知っているということだ。
序盤にアップ・テンポナンバーを集中させ,中盤には体が動くダンサブルな曲を散りばめ,手拍子を要求するタイミングも要を得ている。
驚いたのは,アンコール後の「アウトサイダース」という曲での演出。
力強いビートが特徴的な曲だが,ステージが暗転し,明るくなるとドラムが二人に。
再び暗くなり,照明がついた時には四人に。
さらには六人に。
という具合に,瞬く間にドラムが増えていき,最後は全員で乱打戦が始まってしまった。
まさに圧巻。
後で聞くと,別のバンド(アジカンやズートンズ,クリブスなどの有名どころも!)からドラムの助っ人を呼んで,スタンバイしてもらっていたそう。
そんな彼らのライブ巧者っぷり,サービス精神が十分詰め込まれた素晴らしいステージだった。
ライブが始まるまでの疲労感は,どこかに飛んで行っていた。
あんなにファッショナブルでいて,これだけ踊らせて楽しませるのだから憎い。
CDの印象とは,180度違うフランツの初ライブ体験だった。
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もう一度言うが,フランツ・フェルディナンドはとてもお洒落なバンドである。
それでいて,決してオーディエンスを置いてけぼりにすることはない,優しくて熱いバンドだ。
私は2009年のフジロックでも,彼らのステージを観た。
この年は,前日のオアシスが最高のライブをしてくれたので,正直二日目ヘッドライナーのフランツには(また)あまり期待していなかった。
ところが,彼らはまたしてもやってくれた。
「そうだ!これだ!フランツのライブは滅茶苦茶楽しかったんだ!」
と,跳ねまくりながらアレックスに心の中で侘び,新作をまだ聴いていないことを心底後悔した。
アレックスは,チェックのスラックスに黒いシャツを着て,この日もバチっと決めていた。
私がフジロックから帰還後,彼らの当時の最新作「トゥナイト」を買いに走ったのは言うまでもない。
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振り返ってみれば,デヴィッド・ボウイ(「レッツ・ダンス」),U2(「アクトン・ベイビー」)などダンスに寄ったアルバムをリリースするロックバンドはこれまでもいた。
しかし彼らのダンス(寄りの)アルバムは,自分たちの音楽的成長のために取られたアプローチである場合が主で,本質がダンスというわけではなかった。
一方,ケミカルブラザーズやダフト・パンクは,ダンスとロックの融合を図ったが,彼らの本質はダンス・アクトだった。
フランツのように,真性のロック・バンドでありながら本質をダンスに置く存在は,初めてだったのではないか。
そして,彼らの鳴らす音楽は,そのファッションに負けず劣らずクールで,熱かったのだ。
2018年の「Always Ascending」で,フランツ、フェルディナンドは相変わらず大人のダンス・ロックを存分に鳴らしていた。
プロモーション用に撮られたポートレートも,さすが洒落ていた。
アレックスは,金髪になっていて黒のタイトな上下にヒョウ柄のジャケットを着ていた。
50に近いだろうに,スタイリッシュだ。
しかし,彼らの本質はダンスで,そしてライブだ。
ファッションとダンス・ミュージックと,ライブ。
全てが高純度でポップ化しているのが,フランツ・フェルディナンドというバンド。
2020年代に入ってから,フランツの新作はまだ届いていない。
彼らの帰還を,心から願っている。