Aoi〜アウェーで戦うために〜
サッカーの日本代表がスペイン代表相手に大番狂せを演じて,勝利から28時間が過ぎてもテレビはずっと堂安と田中のゴール映像を流し続けている。
コスタリカ戦の敗戦から一変して現金なものだ。
まあ私も息子たちと早朝から観戦してたので人のことは言えない。
代表チームが活躍したら嬉しいのは当然なことだ。
ところで,今朝の報道番組で元日本代表の福田が,面白いことを解説していた。
それは,日本代表の攻撃システムについての話だ。
スペイン戦の後半,森保監督は長友を下げて左SBに三笘を入れた。
この交代について福田は
「長友選手は守備に特長を持った選手。その長友選手から攻撃に特長を持った三笘選手を入れたということは,それだけ前からプレスをかけて戦う意思が明確に見えるということです。」
と分析していた。
「試合状況を見て,何かを変えようとする時一番早いのは人を変えることです。」
福田が語っていた通り,後半開始直後の日本の1点目は,前田や伊東が前線で厳しいプレスをかけ,慌てたスペイン守備陣が乱れた隙に堂安が左脚一閃,ドイツゴールのネットを揺らした。
おそらく森保監督が描いた青写真通りの得点だったのではないだろうか。
と,知ったような口を聞いているが,私はサッカーに関しては完全に観る専門でほとんど素人だから戦術面の話は想像するしかない。
ただ,大学から社会人にかけてアメフトをやっていたので,チーム戦術についての話は好きで,先述の福田解説やAbemaの本田解説なんかは面白いなあと思いながら聞いている。
だから,サッカーに関してもアメフトに当てはめて考えることが多い。
例えば今回のスペイン対日本の試合も,アメフト的に想像すると,甲子園ボウル常連の関西一部優勝チーム(スペイン)に対して,一部と二部を行ったり来たりしている二部上位チーム(日本)との争いくらいの感覚ではなかろうか,と思うのだ。
で,実際にアメフトで一部優勝チームと二部上位チームが試合をしたらどうなるか。
多分50点差はつけて一部優勝チームが圧勝するだろう。
アメフトは一つのタッチダウンで大体7点は入るので,サッカーで言えば7点差くらいなものか。
グループリーグ初戦のスペイン対コスタリカの点差がそれくらいの点差だったことを考えると,あながち間違った得点感覚ではないのかも知れない。
ただ,アメフト的に考えると,弱者が強者に勝つには,相手のミスを確実に自分たちの得点に生かさないと勝機はない。
しかも,一回ならともかく二回もアップセットを果たすのは並大抵のことではない。
そう考えていくと,日本代表は実は二部上位どころか一部中位くらいの力はつけているのかも知れない。
昔読んでいた村上龍のエッセイで,「アウェーで戦うために」という本があった。
サッカー好きの村上が,当時(2000年前後)の日本代表や中田英寿について書いたエッセイだが,着眼点が斬新で今読んでもなかなか面白い。
この本の中で,サッカーにおける「攻撃の形」について彼はこんなことを書いている。
だいたいサッカーにおいて「攻撃の形」などというものが本当にあるのだろうか?たとえばブラジル代表にはたくさんの攻撃のバリエーションがあるが,それは個々の選手の能力によって可能になる。(中略)
日本代表だが,あの程度のFWで,そもそもどういう「攻撃の形」が可能なのだろうか?足が速いわけでもなく,背が高いわけでもなく,ものすごいシュート力やドリブルを持っているわけでもない。これから成長する可能性はあるにせよワールドクラスのFWに比べると,ごく平凡な選手たちだ。
攻撃の形が見えない,という人たちは,まず「パターン」を考えようとしているのだろう。モデル,やり方,を示してもらわないと不安なのだと思う。それは,突出した個人がゴールの中にボールを蹴り込めばそれで勝ち,というサッカーの基本原理とは別の次元の話だ。
「アウェーで戦うために〜フィジカル・インテンシティⅢ」村上龍
ここで村上が書いているように,当時やそれ以前の日本代表なら,堂安のようにワンチャンを生かして決め切ることはできなかっただろう。
それ以前に,欧州の強豪相手に前線からプレスをかけにいくようなことがなかっただろう。
昔の日本代表はシュートを打っても決めきれず,よく「決定力がない」と揶揄されていた。
センターライン付近でボールを持っても,すぐにプレスをかけられて簡単に奪われていた。
グループリーグの戦い方を見ても,「あの頃」の情けない姿はほとんど感じさせない。
思えば,2010年のW杯で敗れた後,本田がしきりに言っていた「個の力」というものが,ようやく現実的に身を結び始めているようだ。
三笘のスピードと正確なクロス。
久保のテクニックとアイデア。
堂安の決定力。
スペイン戦では枠内シュート3本のうち2本をゴールにした。
少ないチャンスをモノにする集中力の高さは大きな武器だ。
そう言えば,ドイツに勝った次の日の朝日新聞にこんな見出しの記事が出ていた。
「言わなくなった『自分たちのサッカー』」
2014年のW杯で選手たちが口々に言っていた「自分たちのサッカー」。
しかし,世界的な強豪を前にしたときには,圧倒的にポゼッションで上回られて「自分たちのサッカー』どころではなくなる。
自分たちより一段も二段も上の相手と戦って勝ち抜いていくために必要なのは,「自分たちのサッカー」よりもむしろ対応力だ,と森保監督は語ったそうだ。
「攻撃の形」に拘らず,対応力と個の力で勝機を見出す。
今の日本の戦い方だ。
世界を舞台に戦う選手が増え,一線級のスピードとパワーに慣れ,気後れしなくなったのも一つの強みかも知れない。
決勝トーナメント一回戦で当たるクロアチアは強かな相手だ。
98年のフランスでも06年のブラジルでも煮え湯を飲まされた
日本が初めて決勝トーナメントに進出して20年,4度目の正直。
今度こそ,扉をこじ開けてほしいですね。