私がビートルズの「Revolver」スペシャル・エディションを勧める二つの理由
「ブルータス」が特別号として出していた村上春樹特集を読んでいたら,面白いインタビューが載っていた。
好きなビートルズのアルバムに関するやり取りである。
ーアルバムは何がお好きですか?
村上 個人的にはやっぱり,「Rubber Soul」ですね。この間,Netflixで映画観てたら,マフィアの親分が,子分に「お前はビートルズのアルバムの中で何がベストだと思うか?」って聞いていて。「Sgt. Pepper~」と子分が言ったらすぐに撃ち殺されてた。
ー親分は何が好きだったんですか?(笑)
村上 最後には明らかにしたと思うんだけど何だっけな?変なのが好きだったんだよな,「ホワイト・アルバム」だったっけな?いや,「Let it be」だ。
ーわかりやすい好みですね。「ホワイト・アルバム」好きの親分だったら逆にこわいです。
村上 「Sgt. Pepper~」って言ったらすぐ殺される(笑)。
「Sgt.Peppers Lonely Hearts Club band」はロック史上初のコンセプト・アルバムとして,今や歴史的名盤の地位を確立している。
しかし私個人的にも,このアルバムをビートルズのベストには選ばないだろう(勿論嫌いではないが)。
じゃあ,どの作品がベストか?
村上さんが挙げる「Rubber Soul」か。
多くのビートル・マニアがベストに推す「Abbey Road」か。
確かに,この二つも捨てがたいが,私がベストに挙げたいのは,「Revolver」だ。
雑誌を読みながらそんなことを考えていた時,そういえば,「Revolver」は再発盤が出ていたことを思い出した。
そして,その再発盤は家の隣にあるイオンに入っているCD屋にも置いてあったこともついでに思い出し,善は急げと早速買いに出かけた。
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今回購入したのは,「Revolver 2CD Edition」。
ビートルズの楽曲の編曲を手掛けていたジョージ・マーティンの息子,ジャイルズ・マーティンらがミックスを担当したDisc1に,収録曲の別テイク等が集められたDisc2。
安くはなかったが,こういうスペシャル・エディションを購入してみて嬉しいのは,詳細な曲紹介や背景が記してあるライナー・ノーツや当時の貴重な写真が収録されたブック・レットが付いていることだ。
ブック・レットから,当時のメンバーの写真を数枚紹介。
私は音楽好きの端くれとして,お節介ながら,もっと多くの人にビートルズのオリジナルアルバムを聴いてもらいたいという思いを持っている。
彼らの作品はシングルとしては大変有名で,「Hey Jude]や「Let it be」等は世界中の誰もが口ずさめる名曲だ。
ベスト盤としても,「1」や赤盤・青盤などが出ている。
しかし,それらはビートルズの本当の魅力を5%も伝えていないのだ。
彼らの本当の凄さは,8年間にわたってリリースした13枚のオリジナルアルバムを聴いてみて,初めて体感できる。
13枚が無理なら,せめて「Rubber SouL」と「Revolver」,「White Album」に「Abbey Road」の4枚だけでもいい。
この4枚のアルバムを聴けば,ビートルズがどれだけ先進的で,クリエイティビティに溢れていて,クールなバンドだったかを感じることができると思う。
その中でも,彼らがバンドとして最も脂が乗っていた時期に制作した「Revolver」のスペシャル・エディションは是非ともお勧めしたい。
その二つの理由について述べていきたいと思う。
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勧める理由其の一:名盤の法則がある
今回久しぶりに,この「Revolver」を聴き返してみて,改めて気付いたことがある。
それは,私が個人的にビートルズの二大名作と考える「Abbey Road」との共通点が意外に多いということだ。
何が似ているかというと,アルバムの構造だ。
これらは60年代の作品なので,当然レコードでリリースされている。
レコードというのは,A面とB面があり,A面を聴き終わると盤を返すという作業を挟んで,B面を聴かなければならない。
つまり,そこで流れが変わってしまう場合が多いのだ。
「Abbey Road」も「Revolver」も,A面はクールでいかした曲,スウィートなラブ・ソング,リンゴの牧歌的な曲やジョージの癖強めのインド音楽などが散りばめられ,多様なつくりになっている。
ところがB面になると,アルバムのクライマックスに向けた予兆というか,緊張感を感じさせる流れの中で一気にラストへなだれ込んでいくという様相になる。
「Abbey Road」のB面後半には有名な「ポールによるメドレー」がある。
これは,メンバー間の不和により,完成させられなかった楽曲を短く編集してつなぎ,メドレーとして収録したものだ。
ポールは逆境をチャンスに変え,クリエイティブで本当に素晴らしい仕事をしている。
「Revolver」のB面後半というと,#11「Dr.Robert」から始まる。これはジョンの曲だ。#12「I want to tell you」はジョージ,#13「Got to get you into my life」はポール,そしてラストの「Tomorrow never knows」はジョンの曲だ。
つまり,3人のソングライターが書いていることになる。
別の人間が書いたとは思えないほどに,このラストへ向けた4曲の一体感には凄まじいものがある。
ポップな曲も派手な曲も有名曲もないが,しっかりと腰が据わっていて,緊張感がバリバリに漲っている。
クライマックスへ向けて,完璧な助走(#11~13)とテイク・オフ(#14)を聴かせてくれる。
こんな完璧過ぎる構成を3人によるソングライターでつくってしまうのだから,当時のビートルズのポテンシャルとチームワークは,キャリアを通じて最も充実していたのではないか。
勧める理由其の二:別テイクの内容が素晴らしい
このスペシャル・エディションは何がスペシャルかと言うと,音質の向上とともに,別テイクの秘蔵収録曲の存在がある。
こういう,別テイクものとかデモ音源って,結構再発盤を買えばボーナス・トラックなどに付いてくるのだが,大体がアコースティックバージョンになっていて,今一つなパッとしないイメージが強い。
特にオアシスなんかはそうで,リアムに歌わせる前にノエルがアコギでとりあえず歌ってみました的なテイクが非常に多い。
それはそれで素朴な感じがして悪くは無いのだけど,「やっつけ感」が強くなるのは否めない。
ところが,この「Revolver」のスペシャル・エディションが面白いのは,本当にあれこれ試行錯誤して録った中で,アルバムに収録するバージョンを選んできた過程が見えるようなリアルさがあるところだ。
例えば,アルバムのラストを飾る名曲「Tomorrow never knows」。
ポップな要素はゼロだが,渦に巻き込まれるように,聴けば聴くほどその世界に惹き込まれていくような曲だ。
ドラッグをやったことはないけど,その影響下にあったことを想像してしまうような,中毒性のある曲。
今回の「スペシャル・エディション」ではディスク2にこの「Tomorrow never knows」のテイク1が収録されていたので聴いてみたが,オリジナルと全く異なるテンポに面食らった。
テイク1バージョンは,アルバム「Magical Mystery Tour」に収録された「The fool on the hill」に雰囲気が似ている。
ジョンが作った,幽霊が出てきそうで不気味な曲だ。
そんな,幽霊が出そうで不気味な「The fool on the hill」的な「Tomorrow never knows」は,幾度ものテイクを重ねた結果,不穏で中毒的なクライマックス・ソングに生まれ変わった。
そうした名曲へ向けた試行錯誤の変遷が立体的に掴めるというのは,スペシャル・エディションならではの楽しみでもある。
終わりに
ここまで散々「Revolver」愛について語ってきました。
この作品は,私がビートルズにのめり込むきっかけになった作品なのでつい興に乗って,筆が進んでしまいました。
20代前半で出会ってから,iPodに入れて100回以上は再生して聴きました。
今回のスペシャル・エディションでも既に10回以上聴いています。
名盤というのは,何回聴いてもいいものです。
私はどちらかと言えば,後期(66年以降)の作品が好きだが,
「いやいやビートルズの真の魅力は前期にこそあり!」
と言われる方もおられるだろう。
勿論,私だって「With the Beatles」や「Beatles for sale」は大好きだ。
あなたが好きな,ビートルズのアルバム,曲は何ですか?
よかったら教えてください。