古くて素敵なクラシック・ロック~イギー・ポップ~
村上春樹の「古くて素敵なクラシック・レコードたち」が売れているらしい。
以前,当ブログでも紹介したことがある。
この本,最近になってようやく読了した。
たまに思い出したように手に取り,少しずつ読み進めていた。
村上春樹の部屋にあるクラシック・レコードの紹介が主で,大体1回に4~5枚ずつレコードジャケットとレビューが載っている(計400枚以上のレビューを収録)。
紹介してあるクラシック作品はほとんど知らないものばかりなのだけど,村上氏特有の諧謔やエピソードを交えた小話を聴いているようで,なかなか楽しめる。
この「古くて素敵なクラシック・レコードたち」は,なんと続編が先月半ば頃に出たということで,本屋に買いに行ってきた。
タイトルは「更に,素敵なクラシック・レコードたち」である。
なかなか素敵なネーミング・センスである。
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ところで,この本を読みながら
「こういう企画がロックのCDであればつい読みたくなるだろうな。」
と思った。
例えば,CD棚にある古いクラシック・ロックの紹介だ。
作品の制作背景だけでなく,持ち主のその作品にまつわる個人的な思い出なんかがあれば,尚のこと面白いだろう(そういうの,個人的に好きなんです)。
ないなら,自分でやってみようかな。
思い立ったが吉日,やってみようと思います。
題して,「古くて素敵なクラシック・ロック」シリーズ。
第一回は,イギー・ポップです。
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1970年前後に,伝説的なロック・バンド,ストゥージズのフロントマンとしてカルト的な人気を博し,バンド解散後はソロとして,1977年にデビューアルバム「ザ・イディオット」(写真:左)と2作目「ラスト・フォー・ライフ」(写真:右)を立て続けにリリースする。
今回紹介する2枚だ。
正直に申し上げると,これらのCDを聴くまでは,私のイギー・ポップに対するイメージはあまりよろしくなかった。
「あまり」ではないな。
「すこぶる」よろしくなかった。
理由は簡単で,イギー・ポップという名前に反して,全く見てくれがポップではなかったからである。
私がロックを聴き始めた頃のイギーのいで立ちはというと,ライブに出てくるときには大抵が上半身裸(しかもムキムキ)で,長髪を振り乱していた。
おまけに何やらヘンテコな踊りでクネクネ動き回る,お世辞にも格好いいとは言えないオッサン…。
そんなイメージだった。
思いっきり,見た目で判断していたわけである。
しかし,上で紹介した2枚のCDを聴いて,その認識はちょっと改めた。
変なオッサンであることには変わりないけど,ただ変なだけではない。
その「変」さには,しっかりと説得力があったから。
非凡な2枚である。
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「The Idiot」
イギー・ポップ,ソロとしてのデビュー盤である。
ストゥージズを解散した後のイギーは苦難続きだったそうだ。
薬物中毒からのリハビリ期間でもあったし,周囲からの信頼を失ってもいた。
そんな彼に手を差し伸べたのが,ストゥージズ時代から何かと交流のあった,デヴィッド・ボウイ。
ボウイはアルバムの共同制作を持ちかけ,そんなボウイの全面的な協力を得て完成したのが,この「ザ・イディオット」という作品だ。
ボウイのプロデュース,という制作背景があるからだろうが,1曲目の「シスター・ミッドナイト」のダークサイドな雰囲気は,同時期に制作されたボウイの傑作「ロウ」の世界観に通じるものがある。
宇宙的なスケールの大きさと同時に,どこか宿命的な「業」のようなものを感じさせる曲だ。
さらに,このアルバムには後にボウイが「レッツ・ダンス」でセルフ・カバーする「チャイナ・ガール」という曲も収録されている。
色気を感じさせるような艶やかさのあるボウイ・バージョンと比べると,こちらのイギー・バージョンはのどかなカントリー・ミュージック風のアレンジだ。
アルバム全体の流れとして,悪くはないけど粗さが残るのは否めない。
完成度は,次作の「ラスト・フォー・ライフ」に譲るか。
ただ,この時代のイギー,見てくれはなかなか格好いい。
ファッションを見ていくと,ラペル太めのジャケットの下は何も着ていないのだろうか?
下がタイトなジーンズ,妙な手の動きとともに,印象に残る秀逸なジャケット写真だ。
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「Lust For Life」
私がこの企画を思いついた時に,最初にイギー・ポップを取り上げようと思ったのは,この素晴らしいアルバムを紹介したいと考えたからだ。
このアルバムは傑作だ。
多くの音楽ファンに聴いてもらいたい作品だ。
アルバムのオープナーを飾る表題曲「ラスト・フォー・ライフ」は,映画「トレイン・スポッティング」のオープニングとして有名だが,日本でもよくCMなどで流れている。
その軽快なイントロが鳴り出すと,つい体を動かしたくなる,そんな曲だ。
表題曲だけではない。
6曲目の「サクセス」は,ガレージ・ロック風の曲が多いこの時期のイギーには珍しくメロディアスな曲で,ストーンズよろしく歌い上げている。
このような爽快なロック・ナンバーは,デヴィッド・ボウイにはちょっと出せない雰囲気で,イギー特有の「抜け感」が心地よい曲だ。
全体的にハイ&ロウのバランスが絶妙で,名盤として自信をもってお勧めできる一枚。
最後に紹介するのは,表題曲「ラスト・フォー・ライフ」。
一時期,メール・アドレスに使うくらい好きな曲でした。