古くて素敵なクラシック・ロック〜フェイセズ〜
ひょんな思い付きから始めた,「古くて素敵なクラシック・ロック」シリーズ。
第二回は,フェイセズ(Faces)です。
よく,スモール・フェイセズ(Small Faces)と間違えられるフェイセズだけど,この2組のバンドは深く関係している。
スモール・フェイセズは1965年から69年まで活動した英国のロック・バンドで,スティーブ・マリオット(g)とロニー・レイン(b)が中心となって人気を博した。
しかし,中心人物のスティーブが別バンドを結成するために脱退したため,残されたロニーやイアン・マクレガン(k)らは,ジェフ・ベック・グループをクビになってフラフラしていた友人のロン・ウッド,ロッド・スチュワートをバンドに誘い,フェイセズを結成した。
ロン・ウッドは,今や泣く子も黙る世界最高峰のロックン・ロールバンド,ザ・ローリング・ストーンズのギタリストとして名を馳せている。
ロッド・スチュワートは,ソロ・シンガーとして「セイリング」「今夜きめよう」等多数のヒットを放ち,そのハスキー・ボイスとセクシーな佇まいに魅了された人はここ日本でも多いのではないだろうか。
つまり,スモール・フェイセズとジェフ・ベック・グループの元メンバーが手を組んだ,所謂スーパー・バンド的な見方もできるのがフェイセズというバンドの成り立ちだ。
フェイセズの活動期間は,決して長くはない。
1970年に最初のアルバムをリリースし,1973年に最後のスタジオ・アルバムをリリース後,ロニー・レインが脱退。
その後も残ったメンバーで細々と活動を続けるが,70年代半ばにロン・ウッドがストーンズのレコーディングやツアーに帯同するようになって,遂に解散の道を選ぶ。
スタジオ・アルバムとしては4枚を残しているが,今回は我が家にある2作目から4作目までを紹介する。
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「Long Player」(1971)
このアルバムは,レコードジャケットを忠実に再現した,紙ジャケ仕様の再発盤CDを10年以上前に買っていたのだけど,実はほとんど聴いていなかった。
というのも,先に購入していた他2枚(「馬の耳に念仏」と「Ooh La La」)のクオリティに対して,聴いてみた印象が「ちょっと地味だな」というものだったからだ。
だから,2,3回聴いてずっとCD棚に入れっぱなしにしていた。
ところが今回10年ぶりに聴き返してみると,思いのほかよかった。
確かに,グルーヴ感やダイナミズムという点では後に出た2作の方に分があるが,素朴ではあるものの曲の骨格はしっかりしていて,ロッドの歌声もしっかりとそこに乗っかっている。
B面は特に聴かせる。
「リアル・グッド・タイム」なんかは,ロッドのシャウトと,うねるロンのギターが絡み合い,なかなかの迫力だ。
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「馬の耳に念仏」(1971)
私が最初に買ったフェイセズのCDがこれだ。
何故買ったのかはいまいち思い出せないが,多分2011年フジロックのヘッドライナーに再結成フェイセズの名前がクレジットされていたため,CDを聴いて予習してみようと思ったからではないだろうか。
正直そんなに期待していなかったが,このアルバムはなかなか聴き応えがあった。
全体的に気怠げなトーンが若干の古臭さを感じさせるが,逆にそれが安心感をもたらしてくれる。
かすれ気味のロッドのボーカルもいいのかも知れない。
久しぶりに聴いてみると,アルバム全体の雰囲気がストーンズ「スティッキー・フィンガーズ」あたりに近いものを感じる。
牧歌的な曲調の中にも,ミックのボーカルで少し毒を持たせたのがストーンズなら,枯れた退廃的なイメージのほうがフェイセズだ。
これはこれで,結構味があって私は好きだ。
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「Ooh La La」(1973)
「Ooh La La」は,フェイセズ最後のスタジオ録音アルバムだが,ロック・アルバムの名盤ディスクレビューなどでは軒並み紹介されることが多い作品だ。
世間的な評価はまあ置いておいても,私はかなりこの作品に愛着を持っており,一時期相当聴き込んだ。
一番の聴きどころは,間違いなく2曲目「Cindy Incidentally」だろう。
ピアノ・ソロのイントロからの,ひしゃげたギター,そしてロッドの切ない歌声。
曲を引っ張るのは間違いなくロッドのボーカルだが,要所で鳴らされるイアンのピアノがいい仕事をしている。
フェイセズというバンドは,どうしても華のあるボーカル(ロッド・スチュワート)や退廃的なギター(ロン・ウッド)プレイに目が行きがちだけど,実は彼らが活躍する下地には,ロニー・レインらリズム隊が生み出す,磐石のグルーヴや,アクセントになるイアンのピアノがあるわけだ。
彼らの音楽は,古きよきロックンロールの芳醇な香りに溢れている。
70年代前半,ロックが最高の輝きを放っていた最後の時期に相応しい名盤だ。
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2011年,フジロック2日目のグリーンステージのヘッドライナーはフェイセズだった。
かつてバンドを牽引したロニー・レインは既に他界していて,ベースは元セックス・ピストルズのグレン・マトロックが担った。
マネージメントの折り合いが合わず,ボーカルにはロッド・スチュワートを据えることが出来なかったので,代わりにミック・ハックネル(シンプリー・レッド)が歌った。
グリーンステージは,ヘッドライナーの時間帯とは思えないほど,ガラガラだった。
私は,モッシュピットの少し後ろのぬかるんだ芝生の上に佇んで,彼らのステージを見守っていた。
ミックのボーカルは伸びやかなハイトーンで,フェイセズの楽曲に敬意を払い,余計なアレンジも加えず忠実に再現していた。
何度かセッションを重ねたのだろう。メンバーとの息もよく合っていた。
しかし悲しいかな,ロッドのような枯れた色気は出ていない。
まあ,最初からそこは期待していなかったけど,やはりロッド・スチュワートとロニー・レインというのはフェイセズ特有の退廃的なグルーヴを生み出していたのだなと実感した。
でも,ロン・ウッドを始めとしたメンバーが楽しそうに演奏していて,それを見ているだけで幸福な気持ちになった。
最後に彼らの代表曲,「Cindy Incidentally」を紹介します。
即効性はないけれど,じんわりと沁みる名曲です。