ファッションで見るスピッツの”とげ”と”まる”
まずは下の写真を見てもらおう。
言わずもがな,90年代から日本のロック・シーンを最前線で牽引する,スピッツである。
これは彼らがブレイクした直後の,90年代半ばの写真だと思われる。
前面に立つボーカルの草野マサムネはくたびれたワーキングジャケットにタータン・チェックのシャツ,真っ白オーバーサイズのスラックスを合わせている。爽やかな着こなしだ。
左手にポータブルのレコード・プレーヤーを携えている。
ベースの田村明浩は,白のキャップに黄のダウンベスト,ざっくり太いボーダーT。
カーキっぽいワークパンツに,ブーツはレッドウイングか。
この二人の装いから,季節は春ではないかと察せられる。
後ろの崎山龍男(ドラム)は黒のジャケットにダーク・トーンのインナーで落ち着いたコーディネートだ。
この写真だけの印象からすると,スピッツとはカジュアルなファッションで,さぞ軽やかなポップ・ソングを奏でるグループという印象を持たれるだろう。
しかし,スピッツのことをよく知っているあなたは,上の写真に違和感を持つだろう。
そう。
「なんであの男がいないの?」と。
実はトリミングで見えなくしていたのだが,本当の写真はこちらである。
三輪はサングラスに長髪,柄物のシャツにギターを携えている。
お世辞にも,キャッチーな風貌とは言えない。
アコギを抱えているが,パンクでも鳴らしそうな雰囲気だ。
三輪も含めた写真を見ると,彼らの音楽を聴いたことがない人は,いったいスピッツはどんな音楽を奏でるのか想像するのが難しいだろう。
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もう一枚写真を紹介する。
こちらは,先ほどの写真から20年ほど時間が経過した,2010年代頃の写真である。
メンバーも50歳前後となっている。
3人ともやや地味ではあるが,全体的に落ち着いた雰囲気である。
老成した渋い曲を鳴らしそうである。
しかし,スピッツにはもう一人,欠かせないメンバーがいる。
そう,三輪テツヤである。
三輪を加えた写真はこの通りである。
グレイのジャケットに柄物のシャツ。
髪型はツーブロック(というか半分は坊主)の長髪,髭は金髪とド派手である。
これだけメンバーの風貌がアンバランスなグループも,珍しいだろう。
実は最近読んだ本に,このスピッツメンバーのファッションのアンバランスさに言及した本があった。
これはまったく冗談ではないのだが,スピッツのメンバー4人のルックスは,”とげ”と”まる”に引き裂かれる中途半端さを見事に表象している。
草野マサムネ,田村明浩,﨑山龍男の3人のファッションは,一般的な日本人男性の服装コードから外れないものとして整えられている。彼らがまとうシャツにしろ,Tシャツに白,パンツにしろジャケットにしろ,街を歩いていて目を引くものではない。
例外は三輪テツヤで,サングラスに奇抜な髪型(時期によってモヒカンだったりドレッドだったりするが,強い特徴がある点で一貫している)のスタイルは,ほかの3人と並ぶとあからさまに浮いている。
おそらく三輪本人の趣味嗜好に乗っ取ったスタイルだろうが,彼は視覚効果の面で”とげ”の役割を確実に担っている。
筆者は,スピッツの楽曲の特徴は”とげ”と”まる”を内包した,「分裂」にあると主張している。
例えば,2019年にリリースされた現時点での最新作「見っけ」に収録されている「ありがとさん」は,いい思い出も切ない思い出もすべてひっくるめても,「ありがとさん」という一言で表現しているラブソングだが,この曲はサウンド面も含めて”まる”の一つの形と言えよう。
一方で,以前当ブログでも紹介した「1987→」は,自分たちが「はぐれもの」であることを自覚したうえで,これからも続けていくことを誓った”とげ”の表現であると言えそうだ。
この”とげ”の視覚的役割を担うのが三輪で,”まる”の役割が他3人であるというのが筆者の主張である。
確かに視覚的には,そのような役割になるかもしれない。
しかし実際の三輪の人柄ではそうではなさそうだ。
以前のインタビューで,草野がつくる楽曲を全面的にリスペクトしていると語ったり,中学時代には同級生だった田村とバンドを組んでいたそうだが,バンド名は「田村バンド」であったり,決して自分を前に出そうとはしない”まる”の役割を担っているところが非常に微笑ましい。
この視覚とのギャップもまた,彼らの魅力の一つなのと思う。
周期的に,そろそろニューアルバムの完成が待たれるところです。
楽しみです。