本物のトラッドマンは誰だ?
先日,仕事帰りにコンビニに立ち寄り,雑誌棚を眺めていると,「メンズ・ファッジ」最新号を見つけた。
手にとって表紙を確かめると,「今年は迷わずサマートラッド。」という特集タイトルが目に入った。
「なるほど,今回はそういう切り口ね。」
と思ったが,特集がなんであれメンズ・ファッジは毎号大体購入しているので,手にとってレジへ向かった。
家に帰って一息ついた時にページをめくってみる。
どうやら,暑い夏でも実践できそうな涼しげなトラッドスタイルの提案が主なようだ。
ところで,「トラッド」という言葉はよく耳にするが,どうやらファッション用語らしい。
国語辞典を引いてみると,以下のような意味があるということだ。
トラッド[trad]
伝統的であること。また,そのもの。特に,流行に左右されない伝統的なファッションをいう。
明鏡国語辞典第三版 大修館書店より引用
「トラッド」と聞くと,私の勝手なイメージでは,ジャケットにチェックシャツ,スラックスで小粋に決めて,遊び心を感じさせながらもカジュアルに寄り過ぎないスタイル…みたいなものがあるが,要は「伝統的であること」か。
メンズファッションにおけるトラッドスタイルについては,以下のブログに詳しいです。
上記ブログを書いておられるだっちさんは,豊富な知識と実践でわかりやすくトラッドスタイルについて提案されているので,トラッドスタイルを詳しく知りたい方は是非ご覧になっていただきたい。
私の方はあくまで,「音楽と服」というコンセプトに基づいて,今回はアーティストとトラッドスタイルについて検証したいと思う。
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まず,今回の「ファッジ」でのトラッド特集は,全体的にかなりカジュアルに寄った印象であることをお伝えすべきだろう。
「トラッドスタイル」の明確な定義や判断基準がないので,はっきりとは言えないが,少なくとも私が普段目にしたり情報を得たりする範囲での「トラッドスタイル」と比較すると,だいぶ現在のトレンドを意識したシルエット,小物使いになっている。
例えば,下のような白シャツスタイル。
白シャツ自体は,トラッドっぽいアイテムだし全体的にきれい目にまとめている。
この中で,まずスカーフはここ最近男性ファッション誌,女性ファッション誌双方でよく見かけるトレンドアイテムと言っていいだろう。
だけど,雑誌ではよく見かけるけど,実際に男性でスカーフしてる人,まだ見たことないです。
ただ私がお洒落な人が集まる場所に行ってないからなのか?
もう一つはシルエット。
シャツもボトムスも全体的にはかなりオーバーサイズ。
これもここ数年のトレンドを強く意識したサイジングチョイスと言えそう。
こうしてみると,「流行に左右されない伝統的なファッション」という定義が怪しくなってくる。
まあいいや。
それで,比較するアーティストのこと。
メンズ・ファッジが「夏のトラッド」を打ち出しているので,アーティストたちも,夏のトラッドスタイルを実践している人を選びたい。
夏にトラッド?
アーティストが?
と思われるかもしれないが,検証するのに最適な場所がある。
それが夏フェスだ。
夏フェスといえば,勿論真夏に開催されるので暑い。
ステージ上など体感温度はかなりのものだろう。
そんなクソ暑い中でも,自らのスタイルにこだわりをもつ,自身のスタイルを体現することに強い信念をもつアーティストたちは,ジャケットを羽織ったり,シャツを纏って,涼しい顔で歌うのだ。
そんな見上げた男たちを紹介する。
ちなみに引用は,全て「ロッキング・オン」別冊「BUZZ」より。
一人目は,グリーンホーンズのベース,リトル・ジャック。
ジャック・ホワイトがブレンダン・ベンソンと組んだザ・ラカンターズに参加していたので,日本ではそっちのほうが有名だろう。
ジャックが2人だから,小さいほうのジャックは「リトル」。
そんなリトル・ジャック。
下の写真のように,チェックシャツにネクタイ,スラックスというのが定番のスタイル。
長髪もきれいに撫で付け,黒縁眼鏡で知的な雰囲気を醸し出すレトロなスタイル。
私がフジロックで彼らのステージを観た時も,リトル・ジャックは上の写真まんまの,イメージ通りの姿で出てきた。
シャツはウエスタンっぽい雰囲気。
こういう格好って,実は様になるように見せるのは相当な難易度がいると思うが,太めのネクタイやベルトのバックルなど,小物使いからも彼のセンスのよさを感じる。
ラカンターズが登場した時の,一曲目,「intimate Secretary」のイントロが,グリーンステージ上空の夕闇に吸い込まれていった風景は,今でも鮮烈な記憶だ。
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次に「ファッジ」最新号から,傘をさした雨の日のトラッドスタイル。
紹介しといてなんだが,なんの変哲もないクールビズお兄さんになってないか?
私には,このファッションに解釈を加えるような技量はまだない。
うーん,確かに眼鏡と時計は洒落てるけど。
まあタックインしたシャツやスラックスのシルエットはよく見ると,程よいバランスのようには思える。
比較するのは,90年代UKお洒落番長・パルプのジャービス・コッカー。
このジャービス・コッカー,ともかくジャケットスタイルが十八番で,雑誌の取材やライブでも,大抵帽子にジャケットの基本は崩さない。
この写真ではシャツスタイルだが,日差しの強いフェス会場内でしっかり日傘をさしている。
最近では割と男性の日傘もアリな雰囲気になってきたように思うけど,これは10年以上前の写真ですよ。
それにしても,この人はお洒落さん。
見れば見るほど,シャツのサイズ感とか完璧。
おそらく,腕のシャツの捲し上げている袖の折り曲げ幅や丈も全て計算している。
少し透け気味のサングラスとか,緻密に計算された「見せ方」があるように思えてならない。
それにしても,リトル・ジャックとジャービスの写真を比較してみて気付くのが,当時(2010年前後)はわりに派手なバックルのベルトが流行っていたんだなということ。
ここ最近のファッション誌では,まずこんな雰囲気のベルトはお目にかからない。
つまり,俗にいう「トラッドスタイル」も少なからずトレンドの影響は受けているということだ。
まあ考えてみれば当たり前のことですね。
その時に手に入るアイテムで自分のスタイルを形成していくわけだから,好きなブランドやセレクトショップがトレンドを意識して展開する以上,トラッドスタイルを追究しても,その影響は逃れられない。
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最後にこの人のことを。
元オアシスのリアム・ギャラガー。
写真は,日本で最後のライブとなった09年フジロックでの様子。
小雨ぱらつく中,夏なのにモッズコートを羽織って歌うリアムは渋かった。
この時のリアムはのどの調子も近年にないほど良く,現在では2000年代のオアシスライブの中では屈指の出来だったとさえ評価されている。
リアムは,もともとポール・ウェラーに憧れを抱いていたこともあり,自身が追究するモッズスタイルをブランド(プリティ・グリーン)を立ち上げて体現しようとしたこともあるファッション好き。
あまり「きれい目」の印象はなく,どちらかというと粗野なイメージが強いリアムだけど,彼のモッズスタイルはなかなかクールだと思う。
新作もなかなかよかったですね。
近いうちにレビューを書けたらいいなと思います。
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「夏のトラッド」について,フェス出演アーティストを基に紐解いてきた。
やっぱり自分のスタイルを持つアーティストはかっこいいなと思えるし,その一本気みたいなものは不思議と音楽にも通じているような感じがする。
夏も近い。
新しい服を探しに行きたいですね。