音楽と服

音楽と服について好き勝手に語ります

どストレート叙情曲に「やば。」と名をつける藤井風の才能がやばい。

いや,もうあちこちで誰かが言ってるだろうし書いてるだろうから,今更辞めとこうと思ったんだけど,やっぱり書かずにはいられないので書くことにする。

この人とこのアルバムについてです。

 

なんでしょうか,藤井風って。

 

藤井風を最初に知ったのははてなブログがきっかけだった。

ご存じの方も多いと思うが,Kansouさんという無茶苦茶面白い記事を書く方がいて,この方がだいぶ初期から藤井風を推してあったのだ。

 

 

で,確か新型ヴェゼルのCMで流れてた曲もよかったし,Kansouさんがそこまでいいと言われるなら自分でも聴いてみたいと思い,「Help Ever Hurt Cover」というカバーアルバムを買ったのだった。

 

しかし,聴いてみると確かに歌はうまいが,カバーアルバムっていうのは選曲にも大きく印象が左右されるもの。

このアルバムで選ばれたカバー曲群があまり私の好みではなかったこともあり,2,3回聴いただけで終わっていたのだった。

 

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そんな経緯もあったので,彼の新しいアルバムが出たと聞いてもはじめは様子見だった。

 

当初買うつもりはなかったが,「もう一回買ってみよう」と思うに至った決め手は,やはりはてなブログだった。

読者登録させてもらってる複数のブロガーさんの記事で取り上げられている内容であったり,動画を観たりしたことがきっかけだ。

 

ということで,4月下旬に子どもたちの習い事の空き時間を利用して,土曜の昼下がりに行きつけであるCD屋にふらっと行って買ってきたのだった。

それでも宇多田ヒカルの「BADモード」とどちらにするか最後まで散々迷った挙句なのだけど。

 

宇多田と藤井風で迷うなんて,ただのミーハー親父だな。

 

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そのような紆余曲折を経て手に入れたアルバム「Love All Serve  All」。

 

一言で印象を言い表すと,メッセージ性が強いアルバムだ。

とても。

 

私が一日のうちで音楽を聴くのは,早朝に仕事をしている時か電車での通勤中。

 

早朝の仕事中は音を大きくすると近所迷惑だし,自分も集中できないので,BGMによさそうなインスト曲やさらっと聴けるバンドの曲(最近ではDSDCあたり)が多い。

 

藤井風の「Love All Serve All」は,このようなシチュエーションには合っているとは言い難い。

 

内包しているメッセージをつい読み解いてみたくなるかだ。

 

歌詞が,深い。

 

私はいちいちそういう曲は分析してみたくなる性分なので,仕事どころではなくなってしまう。

 

だから,何度か聴いて内心

「このアルバムは只事ではないな。。」

と感じてはいたが,深入りするのも大変なので,またしばらく放置していたのだ。

 

ところが昨日今日の通勤中に不意にiPhoneで流しっぱなしにしていると,その「只事でなさ」が少しずつ自分の中で言語化されてきたので,忘れないうちにブログに残すことにした。

 

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背景についていささか長文を要したけど,人が音楽を聴いたり語ったりする背景って,結構気になりませんか?

私だけかな。

 

藤井風のこのアルバムにおける「只事でなさ」は,一体どういうことかと言うと,

 

・自分の言葉で語っていること

・それを極めてクオリティの高いポップに仕上げていること

 

この2点に尽きると思う。

 

「そんなんアーティストとして当たり前のことじゃん。」

と言われるだろうけど,本当に突き詰めていくと,これを実現しているアーティストって,そんなに多くないのではないか?

 

桑田佳祐あたりはさすがに天才だ。

「ヨシ子さん」の歌詞やコンセプトなんて心底ぶっ飛んでるけど,実は桑田の考えることが驚くほどクリアに表現されている。

彼の才能の底知れなさを知った気がした。

 


藤井風が綴る歌詞を聴いていくと,言葉選びのセンスとか,そこに乗せる音のチョイスとか,そういう細かい積み重ねに無尽蔵の可能性を感じる。

 

何度も何度も墓まで行って

何度も何度もその手合わして

やば,やば,やば,やば。

傷つけないでよ

裏切らないでよ

 

藤井風「やば。」


「何度も何度も」墓まで行って,手を合わせて,そんで何て言うかと思ったら,「やば。」って。 


この曲,かなり叙情的で泣きのメロディなのに,サビではひたすら「やば。」って言ってる。


歌詞を書く上での一般的なセオリーから言えば,おそらくだいぶ外れているのだろうけど,話し言葉としては普通に使われている言葉だから逆にリアルなのです。


そして,考えさせますよね。

「やば。」って,一体どういう感情なんだろう?って。



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この「やば。」に加えて,「へでもねーよ」,「まつり」。

藤井風の綴る言葉は決して難解ではない。

そこに乗せる音楽は,ダンサブルでありながら,歌謡曲的要素も強い。


安易に英語詞に頼ってないのがいい。

こういう曲は日本人にしか作れないだろうけど,ベタベタになり過ぎずうまくスタイリッシュに仕上げている。


それは売れるよな,という感じ。


こういうシンガーは,バラードやらせても上手いけど,少し毒があるくらいが一番馴染んでるようだ。

何やっても器用にこなしそうだけど(ピアノも上手い!),ダンスミュージックなんかに振り切っても面白そうだな。


しばらくはこのアルバムで楽しめそうです。