あるハルキストの戯言
この世の中には2種類の人間がいる。
村上春樹の小説が好きな者と嫌いな者だ。
少し大袈裟かも知れないけど,彼ほど好き嫌いの分かれる作家も珍しいのではないかと思う。
私に関しては,小説,エッセイ全てを揃えたり,ユニクロがこの冬に展開していた「村上T」シリーズを買ったりする程度には好きだ。
さすがにこのTシャツを着て外出する勇気はないが,わりと洒落たデザインだと思う。
「ダンス・ダンス・ダンス」も好きな小説だ。
私と同じように,村上春樹氏の小説を好む人間もいる。学生時代からの付き合いで,毎年のように一緒にフジロックに行っていた友人も村上氏の作品をよく読んでいた。アーティストの情報交換をしつつ,よく書評もし合っていた。
一方で,氏の小説をあまり好ましく思わない人たちも一定数存在する。
前の職場で仲良くしていた同僚は,「なんですかあのエロ小説は」とこき下ろしていた。
確かに氏の小説には,性的な描写がよく見受けられるが,「エロ小説」と揶揄されるほど表現が生々しいとは思わない。
肌感覚でしかないが,大体,好きな人と嫌いな人と半々くらいの割合のように思われる。
この違いは,どういうところからくるのだろうと長年考えていた。雑談の中で,どんな本を読むのかといった話題になった時には,好き嫌いが分かれる作家ゆえ「村上春樹の作品が好き」と打ち合けるのを避けていた時期もあった。
そのようなモヤモヤに,一つの答えが出たのが,村上氏自身のエッセイを読んでいた時のことだった。
そのエッセイの中で氏は,自身の文体について詳しく話していた。そこで,こんな話をしていたのである。
「僕は文章を書くときにはリズムを大切にしています。非常に音楽的な文体と言ってよいと思います。それに対して,見たものに忠実に,絵画を切り取ったように緻密に情景描写をする作家さんもいます。僕の場合は明らかに前者のタイプです。」
この話を読んだ時,自分の中でストンと落ちたものがあった。
なるほど!そういうことだったのか。
確かに,村上氏の作品を好んで読む私の友人も,私と一緒にフジロックに行くほど音楽好きだ。
それからは,自分と同じような音楽の好みをもつ人に村上氏の作品についての印象を聞いていくと,好ましく思っている人が多いことが分かった。
村上春樹自身もジャズ,クラシック,ロックをはじめとしたあらゆる音楽に対する造詣が深いことで有名だ。
なるほど,そういうことだったか。
あくまで,仮説に基づいた話ですが。
木曜日にノーベル文学賞の発表がある。
今年はどうなるか。
村上氏自身は,毎年騒がれるのは正直煩わしいと話している。
私も個人的には,ひっそりと彼の小説やエッセイを楽しみたいと思う。
でも,やっぱり気になりますけどね。
さあ,今年はどうなるか。