音楽と服

音楽と服について好き勝手に語ります

Do you Remember?

「Do you Remember?」

 

運転中にカーラジオを聴いていると,ナビゲーターが突然,私に呼びかけた。

 

そのフレーズからすぐにその意図を察した私は

「くるな。」

 

と身構えて待ったが,「あの曲」はかからない。

 

再びナビゲーターが問いかける。

 

「Do you Remember?」

 

何かの前フリなのか?

エンジンをかけてからまだ数分しか経ってなかったので,その前のくだりからの流れがあったのかも知れない。

 

結局,「あの曲」は聴けなかった。

 

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音楽好きのみならず,70~80年代には既に物心がついていた人なら,「Do you Remember」のフレーズを聞いたら「あの曲」を連想するのではないだろうか。

 

だって9月だから。

 

帰宅した私は,早速CD棚から「あの曲」が収録されたアルバムを探した。

確か彼らの作品は一枚だけ持っていたはずだ。

 

見つけた。

アース・ウインド&ファイアーの「ファンタジー~パーフェクトベスト」。

改めて歌詞を読み返してみると,歌い出しはこのようになっていた。

 

覚えているかい

9月21日の夜を

愛は僕の気持ちを変えてしまった

9月の空を追いかけている間に

 

アース・ウインド&ファイアー「セプテンバー」

 

この曲は,9月21日のことについて歌っていたのだ。

全然知らなかった。

 

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私が新卒2年目に働いていた職場に,10くらい年齢が離れているけどとても面倒見のいい先輩がいた。

 

その先輩は昔バンドでドラムを叩いていたらしく,特にハードロックが好きで,エアロスミスやらヴァン・ヘイレンやらをよく聴いていて,私にもいくつかCDを貸してくれていた。

 

私は私で,当時は特にUKロックに入れ込んでいて,ブリットポップ勢からスミス,ハッピーマンデイズなど掘り下げていってたので,先輩とハードロック・バンドの話をするのもまた新鮮だった。

 

そんな先輩と,ちょうど今と同じ季節…秋口にドライブをしたことがある。

 

ドライブといっても,先輩ん家の別荘の片付けの手伝いに行っただけなのであるが。

実家が地主で,大層育ちがいい先輩ではあったが,全く飾らない大らかさのある人だった。

 

別荘までの道すがら,先輩が運転する白のステップワゴンの車中で,ずっと流れ続けていたのがアース・ウインド&ファイアーだった。

 

例の,「セプテンバー」のイントロが流れてきた時にはすぐにピンときたが,同時に意外でもあった。

 

筋金入りのハードなロック,メタルが好きな先輩がこんな軽薄そうなダンスミュージックを聴くなんて。

 

そう思って,尋ねてみると

 

「だって気持ちいいやん。」

 

と答えてくれた。

 

「そんなもんかな」と,いまいち腑に落ちなかった覚えがあるけど,ハードロックもダンスミュージックも,そもそも「快楽原則」がもとになっている点では合点がいく。

 

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それにしても,9月(セプテンバー)というのは曲のテーマになりやすい月ではないだろうか。

 

竹内まりや「セプテンバー」,松任谷由実「セプテンバー・ブルームーン」,SHAZNA「すみれセプテンバー・ラブ」。

 

カーラジオを聴きながら運転していると,結構「セプテンバー」と名のついた曲が流れてくる。

 

なぜだろうか。

 

9月というのは,特に情緒を感じる時季だからではないか。

 

朝夕はめっきり涼しくなり,外を歩けば蚊に刺されることもなくなり,かわりにコオロギの声が聞こえるようになった。

 

暑さの盛りを越え,これから徐々に冬に向かっていく,そこはかとない物悲しさも感じられる。

 

こういう時季って,物思いに耽ったりインスピレーションが湧きやすかったりするのだろう。

 

・・・「すみれセプテンバー・ラブ」からは,あんまり情緒は感じないけど笑。

 

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アース・ウインド&ファイアーのボーカル,モーリス・ホワイトは若い頃はドラマーとしてチャック・ベリーマディ・ウォーターズバディ・ガイなどのロック,ブルースのレジェンド達のレコーディングに参加し,ジョン・コルトレーンのツアーにも参加した経歴を持つなどして研鑽を積んだ。

 

ロックンロールのダイナミズムや,ブルースの哀愁など,プロの技術・表現力を吸収した彼の音楽が,70年代後半から80年代にかけて,日本のディスコ・シーンで多大な影響力を持つようになった事実は非常に興味深い。

 

そう,「セプテンバー」は哀愁の9月を思って歌った,実は切ないダンスナンバーだったのだ。

 

 

15年前,片付けを終えて,先輩の別荘の庭から見上げた空は,高かった。

向こう側には博多湾が広がっていて,水面は夕焼けで光っていた。