「ビートルズと服」の8年間
初めて買ったビートルズのCDは,「1」であった。
久々のオフィシャルベストということで,当時結構話題になり,久米宏さんがメインキャスターを務めていた「ニュースステーション」では,2週間ほど特集が組まれた程だ。
それは,アルバムに収録されたビートルズの楽曲のMVをフルコーラス流すという,報道番組としてはかなりチャレンジングな内容だったと記憶している。
かの有名な,アップルビル屋上でのゲリラライブで演奏された「ゲット・バック」を初めて見たのも,この特集だった。
VHSに標準録画をして,何回も見返した。
髭面でセンターに陣取るポールの笑顔からは,開き直ったような清々しさが感じられる。
茶のコートを羽織った丸眼鏡のジョンは,少し仰け反りながら渋いギターソロを掻き鳴らす。
黒のアウターにグリーンのタイトパンツを履いたジョージはやや俯き加減に。
目の覚めるような真っ赤なコートを着たリンゴは,いつも通り淡々とリズムを刻む
衝撃のかっこよさだった。
四人の佇まいと,その様子を見守る聴衆の,なんとも言えない緊張感が漂う。
決別を決めた四人の覚悟なしには、ここまでの迫力が出すことは,できなかっただろう。
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ビートルズは,デビュー時はマネージャーのブライアン・エプスタインにより揃いのスーツ,マッシュルームカットでライブやプロモーション活動をしていたことが知られている。
キャリアを重ねるにつれ,ファッションにも個性が出ていったというのが一般的な認識だが,実際はどうだったのだろうか。
以前も似たようなテーマで記事を書いたことがあるが,あまり写真を使っておらず,具体的な検証できていなかった。
だから今回は,デビュー間もない頃から解散に至るまでの彼らの様子を,ファッションを中心に紐解いてみる。
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「With the Beatles」(1963)
初期の「ウィズ・ザ・ビートルズ」のブックレットには,当時としては珍しくラフな彼らの姿が残されている。
ポールとジョージは,シャツにスラックスという「クールビズ」スタイルだが,リンゴはバンドカラーのシャツだろうか。
よく見ると,リンゴとジョージはサンダル履きなのが笑える。
ジョンに関しては白Tをタックインにサングラスというスタイルだが,白Tシャツがなんとも下着っぽくて微妙な印象。
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「A Hard Days Night」(1964)
続いては,翌年の「ハード・デイズ・ナイト」。
白シャツに黒いタイ,ジレという装いはジョン(左)とジョージ(右)。
初期のお揃いスーツの頃と比べると,やや着崩すようなスタイルが板についてきているようだ。
ジョンは眼鏡をかけるようになった。
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「サージェント・ペッパーズ・ロンリーハーツ・クラブバンド」(1967)
「サージェント・ペッパーズ」は,自分たちを架空のバンドに見立てたコンセプトアルバム。
アルバム・カバーでは揃いの衣装を着ていた四人だったが,ブックレットには,スタジオに集まるメンバーと,プロデューサーのジョージ・マーティンの写真が収録されている。
まずジョージの民族調のベストが目を引く。
当時からインド音楽に傾倒していたことも影響しているのだろうか。
ジョンも,髭を蓄え始めており,丸眼鏡をかけるように。
この年,ビートルズをスターダムに押し上げた仕掛け人,ブライアン・エプスタインが亡くなっている。
メンバーがそれぞれの個性を主張するようになる萌芽は,ファッションにも表れ始めているようだ。
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「ホワイト・アルバム」(1968)
翌年の「ホワイト・アルバム」もメンバー個々の力量が改めて示された傑作ではあるが,一体感には乏しい作品であることもまた事実。
このブックレットのジョンは,髭こそないが,長髪にラフなデニムのシャツという,後年のイメージを彷彿させるスタイル。
一方のリンゴは,ジャケットにシャツの至ってクラシックなスタイル。
襟に一癖あるような感じではあるが,あくまで「さりげない」程度に抑えているのはいかにもリンゴらしい。
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「Let it be」(1970)
「Let it be」は,解散後にリリースされた作品なので,実質的にはメンバーの意向とはだいぶかけ離れた形で世に出ることになった。
2003年に「Neked」として,過剰な編曲を取り除いたバージョンがリリースされ,ポールなどはそちらのテイクの方が気に入っているようだ。
この「Neked」のブックレットには,
髭を蓄え(30歳前後には見えない),意気揚々と歌うポールと,真っ白な衣装に身を包み,弦楽器(シタールだろうか?)をいじるジョンの写真が使われている。
二人のファッションの傾向の違いがよく分かる対比になっている。
ポールはわりとスタンダードな装いを好むが,ジョンは個性が強め。
特に全身を白でまとめているあたりは,「アビイ・ロード」のジャケ写を彷彿させる。
白一色でただただ「清楚な」印象にならないようにだろうか,足元はカジュアルなスニーカーをチョイスしているのは彼ならではの秀逸なバランス感覚だと言えそう。
このスニーカーはジャック・パーセルでしょうか?軍モノでしょうか?
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ビートルズのデビュー当初から解散までの歴史を,「ファッション」という観点で追ってみた。
追ってみて感じたことは,どの時代にせよ,ビートルズというバンドの面々には一定の「気品」が漂っていて,あまり野暮ったさを感じない点だ。
勿論,時代を経るごとに個性が出てきて,さらに洗練されていったり,奇抜な格好をしてみたりするのだが,不思議とどんな格好にもさらりとしたセンスの良さが感じられる。
それも,彼らが時代を越えて愛される一つの要素なのかもしれないな,と思ったのでした。