ポール・マッカートニー・アンド・ウイングス〜古くて素敵なクラシック・ロック〜
令和5年に入ってから始めた「古くて素敵なクラシック・ロック」シリーズ。
第3回は,ポール・マッカートニー。
言わずと知れたザ・ビートルズのメインソングライター,ポール。
ビートルズ好きな人とは必ずと言っていいほど,
「ジョン派?ポール派?」
という話をするが,私は間違いなくポール派だ。
理由を一つ挙げるとすれば,「ポップだから」。
これに尽きる。
ポップ・ソングの引き出しが驚くほど多く,そして深い。
最近の作品を聴いていても,この人の才能は枯渇することを知らないのかと本当に思わせてくれる。
まあ,キャリアの長い人だし作品も多いので,良し悪しはあるにせよ,彼がポップミュージックにもたらした功績というのは計り知れないだろう。
今回は,そんなサー・ポールの作品の中からウィングス時代の3作品をご紹介。
ちなみにウィングスとは,ポールがビートルズ解散後に妻のリンダ,デニー・レインらと結成したバンド。
活動期間は10年程度だが,ポールのビートルズ解散後のキャリア史上では,最も人気・セールス共に充実していた時期であろう。
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「バンド・オン・ザ・ラン」(1973年)
まずは傑作,「バンド・オン・ザ・ラン」から。
表題曲でスタートする作品だが,最初から劇的な展開の曲で華々しく幕を開ける。
いつか,当ブログでこの曲を自分の結婚式のオープニングにして,
「脱獄の曲を結婚式で使いおって!」
とビートル・マニアの先輩からお叱りを受けた話を書いた記憶がある。
でも,この「バンド・オン・ザ・ラン」という曲の痛快な開放感というのはいつ聴いても最高だ(今も聴きながら書いている)。
また,このアルバムではポールがビートルズ時代から用いている「リプライズ」(ある曲の一部を,他の曲の合間に挿入する手法)が再び使われており,アルバムの物語性や統一感を高めるのに一役買っている。
ちなみに,この手法は,後にオアシスのアルバムでも採用されている。
アルバム全体の完成度はかなり高い。
「ジェット」など映えるシングルは今でもポールのライブではセットリストの常連。
脇を固める「ブルー・バード」などの佳曲もいい味を出している。
ポールのソロキャリアの中では間違いなく,一番にお勧めできる名盤。
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「ヴィーナス・アンド・マーズ」(1975年)
「ヴィーナス・アンド・マーズ」もなかなかの秀作だ。
スタートの「ヴィーナス・アンド・マーズ」から「ロック・ショウ」への流れは,「バンド・オン・ザ・ラン」のスタートをさらにダイナミックにした感じ。
アルバム中盤「マグネット・アンド・チタニウムマン」。
おそらくシングルでもない無名の曲だろうが,味があって好きだ。
朗々と歌い上げるポールと,リンダらコーラスの掛け合いが渋い。
このような小品のような曲が散りばめられているアルバムというのは,ぴりっと締まる。
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「スピード・オブ・サウンド」(1976年)
前二作に比べると,全体的に静謐な印象を受ける作品。
正直,ロックのダイナミズムを突き詰めた「バンド・オン・ザ・ラン」と「ヴィーナス・アンド・マーズ」に比べると地味な感じがして,そこまで聴き込んではこなかった。
しかし,今回久しぶりに聴き返してみると,この「スピード・オブ・サウンド」というアルバムに,これまでとは異なる印象を持った。
全体的に抑えめではあるのだけど,アコースティックギターの素朴な調べ,リンダが奏でるピアノの音色,そしてポールの「歌」が沁みてくるのだ。
一人で静かに読書をしながら聴く分には,もってこいのアルバムかも知れない。
それと,「シリー・ラヴ・ソングス」は必聴です。名曲。
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私は2015年,ポールが京セラドームでライブをした時には,午後から仕事を休み,新幹線で一路大阪を目指し,会場に乗り込んだ。
そのライブの直前の様子を,読書ノートに記録していたので引用する。
にわかに会場全体がざわついてくる。正面に見えるスクリーンに少年が映し出されている。おそらく,ポールの少年時代の写真だろう。童顔と言われるポールだ。人懐こい笑顔は今と変わらない。
その後、ビートルズ時代とウィングス時代と,時を経てポールの姿が次々と映し出される。しかもこのスライド,かなりお洒落につくりこまれている。
最後に現在のポールの写真が現れ,消えたところで,客電が落ちた。
たまらず歓客が叫ぶ。奥の暗幕が動いた。
ポールだ!
軽やかにステージ中央に歩いていくと,一曲目のイントロが響き渡る。
「マジカル・ミステリー・ツアー」だ!!
このライブでのポールは圧巻だった。
背に演出用の炎を浴びても,涼しい顔でギターを弾き,歌った。
ステージを所狭しと動き回り,三時間の間一滴の水も飲まなかった。
ポップ・スターとしてのプロ根性を見た感じであった。
このライブをやり切るために,普段から相応の努力をしているだろうことは想像できた。
しかも,それを微塵にも感じさせない程,このひとは楽しそうに歌うのだ。
「オオキニ〜!」
と軽やかに手を振って去って行った,サー・ポールの後ろ姿は忘れられない。
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最後に,「ヴィーナス・アンド・マーズ」から「マグネット・アンド・チタニウムマン」をご紹介。
有名曲ではないけど,こういう味のある曲がアルバム全体のクオリティを引き上げていると思います。