「青の男」ジャック・ホワイトが鳴らし続けるギターロック
ジャック・ホワイトと言えば,若いロックリスナーからすると,今年のフジロックでヘッドライナーを務めた,シンガーソングライターなんだけど,やたらギターノイズの激しいおじさんって感じか。
そこそこ年齢のいったロックリスナーなら,「あのホワイトストライプスの人ね」という認識だろうと思う。
私が彼のことを初めて認識したのが,「ロッキング・オン」を2000年代半ばに購読を始めた頃,彼が率いるホワイト・ストライプスの5枚目のオリジナルアルバム「ゲット・ビハインド・ミー・サタン」がリリースされたタイミングだった。
その時の「ロッキング・オン」に載った広告が下のもの。
これを見ると,使われている色が赤・白・黒の三色であることが分かるだろう。
そう。
ホワイト・ストライプスはコンセプトカラーが赤・黒・白というバンドだったのだ。
右がジャック・ホワイト。
ホワイト・ストライプスはギターとドラムのみでブルースを体現するという,ぶっ飛んだバンドだった。
この三色コンセプトの由来は,メグ・ホワイト(左)の好きなペパーミントキャンディーから取ったらしいのだけど,彼らは衣装からアルバムデザイン,ステージセットまで全てこの三色で統一して活動を行っていた。
一般的に,色彩心理学の分野では,赤はエネルギーや情熱などを表す色だという。
確かに,彼らの掻き鳴らす荒削りなギターロックは,今にも噴き出しそうな赤いマグマのように刺激的で攻撃的だった。
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その後,紆余曲折あってソロになったジャックは,自身のコンセプトカラーを変更する。
上の写真のように,今度は青・黒というコンセプトカラーだ。
青には冷静さ,集中力を高めるといった心理的効果があるそう。
2012年にソロデビューを果たしたジャックは,例の如く衣装に加えアルバムデザイン,ステージセットまで青・黒に全て統一した。
私は2006年と2012年に,フジロックのグリーンステージでジャック・ホワイトを観ている。
2006年はバンド(ラカンターズ)としてだったが,2012年はソロデビューの年でもありアルバムを出した直後だったため,注目度も高かった。
このステージでは真っ青なジャケット,スラックスでステージに立ったジャックは,自分と同じように青の衣装に身を包んだバンドとともに縦横無尽に演奏し,歌った。
事前のアナウンスによると,ジャックは当時男性ばかり集めたバックバンド,女性ばかりを集めたバックバンドを2つ率いて,日替わりでステージに立たせていたそう。
変わってるのはその起用法で,なんと演奏する本人達にも当日までどちらがステージに立つのかを知らせないそうなのだ。
予定調和ではないカタルシスをバンドに呼び込みたいとの狙いがあっだそうだが,バンドにしてみればモチベーションを保つのが大変だったことだろう。
という事で,私が観たフジロックのステージでは女性バンドとともに出てきたジャック。
相変わらず熱量の高い演奏と歌声でオーディエンスを圧倒して帰って行った。
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当時までのジャックのファッションは,コンセプトカラーの変更はあったものの,基本的にはジャケット,ハットの人というイメージがあった。
ところが,今年に入ってフジロックのヘッドライナーや新作のリリースが続いてたことで,久しぶりにジャックの姿を動画や雑誌で見る機会があっだが,ビジュアルが激変していて驚いた。
まずはなんと言っても髪型だ。
黒髪の長髪だったのに,かなり短くなっている。
そして,色!
写真が白黒なのでわかりにくいが,髪を青に染めているのだ。
コンセプトカラーを貫いている点はさすがこの人という感じ。
実は新作はまだじっくり聴けていないのだけど,試聴してみた限りでは,さすがの熱量を持った,というか迸った瞬発力が健在。
今回のフジロックのグリーンステージで彼のステージを観た,「ロッキング・オン」の編集長山崎洋一郎は,速報として以下のような記事を書いている。
ジャック・ホワイトはエレキギターから発するハイヴォルテージでハイテンションでハイプレッシャーなエネルギーが,現代においても有効であることを証明し続けている。だが,一つ問題がある。有効性の証明はジャックなら可能だが,そもそも現代のキッズはわざわざエレキギターやロックにそれを求めるのか。
このライブを見て,その答えがはっきりした。そんなことは知ったことではないのである。ジャックは,あらゆるサウンド,技術,アイデアを駆使して,エレキギターの有効性を,ロックの有効性を証明し続ける。純文学や学問の精神だ。
山崎洋一郎の「編集長日記」2022.7.30
そう。
山崎が言うように,ジャックは求道者なのだ。
コンセプトカラーも,ギターロックも,基本的にはずっと変えない。
ただその道をひたすら究めるために,進む。
きっと拘りの強い人物なのだろう。
かつてのバンドメイトだったメグや,男女別編成バンドのメンバーなど,これまでも彼の拘りに振り回されてきた人たちはたくさんいるはずだ。
でもその一本気には,この混迷の時代には,ほとんど救いと思えるような明確な意思表示がある。
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ジャック・ホワイトは,2000年代初頭のガレージパンク・リバイバルにおいて頭角を現したアーティストだ。
あの頃出てきたバンド,アーティストのうち,今でも元気に活動している連中は数えるくらいだ。
実際,ギターロック自体がここ十年は音楽のトレンドからは大きく外れたところにあるといった状況だ。
そんな中で,一人気炎を上げ続けるジャックをヘッドライナーに指名したフジロック(日高さん)は偉いと思う。
客に受けようが受けまいが関係ない。
自分が信じるロックを鳴らすのだ。
それこそが,ロックの本質ではなかろうか。
ジャックの作品からはいつも,ギターロックを信じ続ける者だけが鳴らせる音が響いている。
確信に満ちた,いや確信しかないギターノイズ。
それがいつも,理屈抜きで私のハートを鷲掴みにするのだ。
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コロナに感染し,自宅療養が始まった日にAmazonでジャックの新作を注文した。
多分明日には届くはずだ。
新作で彼がどんなヴォルテージでギターを弾き,歌っているのか,「青の男」の最新モードが気になって仕方がない。