アークティック・モンキーズの変貌
「ロッキング・オン.com」に,アークティック・モンキーズがLAで開催されたフェスの大トリを務めたという記事が出ていた。
2000年代以降のUK・USロックに少しでも触れたことがある人で,彼らの名を知らぬ者はいないのではなかろうか。
2006年,イングランド北部から突如として現れた4人の少年たちは,瞬く間に世界を席巻した。
1stアルバム「Whatever People Say I Am That's What I'm Not」(長すぎていまだに覚えきれない!)はデビューアルバムとしての全英初動売り上げ記録を更新し,ここ日本でも10万枚以上のヒットを記録した。
この2000年代中期には,彼らの他にもザ・ビュー,カイザー・チーフス,ザ・クークスなどイギリス出身の良質なギターバンドが多数出てきたが,そのようなバンドとアークティックスはあまり同じ括りでは語られない。
それくらい彼らは初めから図抜けた存在感を誇っていたし,ある意味完成された「ロックン・ロール」の型を持っていた特異なバンドだった。
メンバーは当時20歳にも届かない年齢だったのにも関わらず,だ。
アークティックスに関しては,ベラドンナさんのブログに詳しいです。↓
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ところで,アークティックスはファッション変遷も著しいバンドだ。
彼らの装いの変化については,2014年2月の「ロッキング・オン」で粉川しのさんが言及していた。
ご存知の通り,アークティック・モンキーズのアレックス・ターナーの現在のビジュアルはリーゼントでロカビリーだ。でも,少し前の彼はロン毛をなびかせ,お洒落なジャケットを羽織っていた。そしてもっと前の彼は,お世辞にもお洒落とは言えない伸びきったTシャツを無造作に着ていた。そんなアレックスの外見の変遷は,アークティックの音楽性に合わせてコンセプチュアルに整えられたものではない。私やあなたも経験したように,年を重ねれば(服の)趣味も変わるものだという,しごく自然な成り行きに尽きるものだ。そしてアークティックの凄さとは,彼ら自体もそうやって,まるで人間が大人になるように当たり前に成長してきたバンドだということだ。
text by 粉川しの 「rockin'on」2014.02より引用
記事の中で粉川さんも触れているように,2013年のアークティックス,とりわけフロントマンのアレックス・ターナー(左端)はリーゼントだった。
ファッションも「古き良きアメリカ」を彷彿とさせるロカビリースタイル。
このようなスタイルについて,アレックス本人はインタビューで以下のように語っている。
「あそこの床屋に行って,『顔面移植以外の方法で,できる限りエルヴィスに近づけてくれ』,みたいなことを言ったんだけど。これはバンドの中の競争のようなものなんだ。いつもみんなをあっと驚かせようとしているからね。まあ,俺はフォワードみたいなものだから,率先してバカをやるべきじゃないか,って思ったんだよ。
アレックス・ターナー 「rockin'on」2014.02より引用
いわゆる「乗り」でやったんだみたいなことを話しているが,それでも様になっているのだから憎い。
アークティックスはこの2013年にリリースした「AM」で久しぶりの世界的なヒットを飛ばし,デビュー作以降やや停滞していた評価を覆し,完全復活を遂げた。
当時メンバーがLAに移住し,その土地の空気を吸いながら制作された「AM」からは懐の深い,どっしりと構えた骨太なグルーヴが聴ける。
彼らの当時の装いは,その自信を裏付けるものであったのではなかろうか。
ちなみに私がフジロックで彼らを観たのは2011年のことだったが,その頃のアレックスはロン毛で,革ジャンを着ていた。
デビュー当初の「青臭さ」は既に消え,風格さえ感じさせる佇まいだったのをよく記憶している。
それでも当時,まだ彼らは25歳くらいだったのだ。
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ところで,冒頭の引用記事で粉川さんが
「そしてもっと前の彼は,お世辞にもお洒落とは言えない伸びきったTシャツを無造作に着ていた。」
と書いていたが,デビュー当初の彼らの服装はこんな感じ。
どこにでもいる大学生,といった装いだ。
しかし面白いのは,こんな垢抜けない少年たちが鳴らすロックンロールが,恐ろしく渋くてクールだったということだ。
ボブ・ディランがパンクを歌っているイメージ,というのが一番伝わりやすいだろうか。
渋谷陽一あたりは「天才少年棋士っぽいイメージ」と評していたが,ともかく手練れで涼しい顔をして滅茶苦茶かっこいいロックをやっている。
性急だが,一体感があり,ギター・ベース・ドラムが塊になってグルーヴをもたらす。
宿命的で確信しかないロック。
「When The Sun Goes Down」はそう呼ぶのに相応しいナンバー。
デビュー当初はオアシスとよく比較されていた彼ら。
しかし音楽性は全然違う。
叙情的なメロディーを奏でるオアシスに対し,アークティックスのそれは全く愛想がない。
ところが,共通する部分もある。
それは,自分たちの成功についてどこまでも確信的なところだ。
リアムは「俺は俺である必要がある。」と歌い,
アークティックスは音でそれを表現してみせた。
彼らの弾き出す「音」には一切の迷いがない。
確信しかない。
その「確信」は,作品を経るごとに,「自信」となって深みを増してきた。
10月には4年ぶりの新作リリースも控えているアークティックス。
36歳になったアレックスが今度はどんな服を着ているのか,どんなロックを鳴らしているのか,今から楽しみです。