ベックの生き方とファッション遍歴
以前,一度ベックの記事を書いた時に,「ベックの生き方そのものが好き」と話してくれた先輩と語り合ったエピソードを紹介した。
先輩がその生き方に共感したのは,「オデュレイ」の頃までのベックで,彼のキャリアで言えば初期と言える。
この頃のベックは,「ルーザー」のヒットが一過性のもので,一発屋と思われていた。
そこで,自身のルーツであるブルースやフォークを自分なりの解釈を加え,起死回生の思いで制作した2ndアルバム「オデュレイ」は大ヒットを記録した。
「フジロック20thアニバーサリーブック」シンコー・ミュージック・ムックより。
今ではライブでもまず見られないであろう,プレイボーイのTシャツ姿。時代の寵児は,固定概念に囚われず,ラフな姿でフォーク,ブルース,ロックの垣根を越えてみせた。
先輩が共感するベックの生き方とは,伝統に縛られず新たな道をたった一人で切り拓いていく姿だろうか。
それから数年が経ち,ベックは30歳を過ぎ,父親になった。
「ロッキンオン」2006年12月号に掲載されてた写真。この時期のベックは前年にリリースした「グエロ」が原点回帰作と評価され,次の年の「インフォメーションズ」ではレディオヘッドのプロデュースを担当するナイジェル・ゴドリッチを迎え,パーカッションや手拍子を中心とした荒削りかつ斬新なサウンドで新境地を開拓する。
世間的な評価は高くないようだが,私は個人的にこの「インフォメーションズ」というアルバム,結構好みだ。
ドラムだけでなく食器で出した音や赤ちゃんの話し声までサウンドの一部として収録されていながら,奇をてらっているようにも聴こえずとてもメロディアス。
この次の「モダン・ギルド」(デンジャーマウスのプロデュース)も含めて,ベックの原点回帰三部作と勝手に位置付けている。
個人的にはかなり好きな時期。
装いも90年代後半に比べると,かなり落ち着きが出てきている。白のハット,テーラードジャケット。ジャケの白が差し色になっているあたりが絶妙。
しかし,この後,彼のキャリアは暗転する。
脊髄損傷の憂き目に遭い,2000年代後半から五年以上も表舞台から遠ざかってしまうのだ。
深い絶望感にさらされたベックだったが,療養中も作曲はやめなかった。久しぶりに表舞台に戻ってきた時,彼は「モーニング・フェイズ」でグラミー最優秀作品賞という最高のカムバックを果たした。
しかし本当のカムバックは,次の「カラーズ」だと思う。
何というか,ある意味ベックらしさと言える斜に構えた感じがない。代わりに,ストレートにポップであることを楽しんでいる。それでいて,深い知性を感じる。
深い絶望を味わったからこそ,本気で音を鳴らすことの喜びを表現しようとしているのだろか。
史上最も偉大なポップアルバムだと断言できる。
「ロッキンオン」2016年12月号より。
テイラー・スイフトとベック。
ジャスティン氏とベック。
黒のライダースもピンク(!)のテーラードジャケットもパリッと着こなしていて貫禄すら感じる。
2006年頃の写真と比べると一目瞭然。
先輩は時代を切り拓く「ルーザー」ベックの生き方に共感した。
私は,脊髄損傷という深い絶望の淵から這い上がり,本物の「ルーザー」として本物のポップを鳴らし始めたベックの生き方にこそ共感を覚える。
人が本当のポップソングを歌えるのって,単に楽しいとか調子がいいからとは限らなくて、本物の絶望を見ているからこそ,心の底から歌える歌があるように思える。
いや,でもベックについて語り合いたいですね,先輩。