あなたの「無人島レコード」は?
「レコード・コレクターズ」が増刊号で出していた「無人島レコード」という企画本があった。
もう20年くらい前の本だけど,とても面白い企画だったのでよく覚えている。
企画の主旨は,あなたが無人島に行くとして,一枚だけレコード(CD)を持って行けるとする。
その一枚に何を選ぶのか,というものだ。
この本には様々な著名人,アーティスト,音楽評論家が登場し,「わたしの無人島レコード」として一枚のレコード(CD)について語っている。
それだけの本なのだが,過去のスタンダードな名盤から,ちょいクセの強いチョイスまで諸々で,個人的にはとても読んでいて面白かった。
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それで,この「無人島レコード」を思い出してからというもの,「自分の『無人島レコード』はなんだろう?」と自問を続けていた。
なんと言っても無人島だ。
設定は定かではないが,おそらくは一人であろう。
話し相手もいない。
孤独に耐える中で,一枚のレコード(CD)を聴く自由は与えられている。
無人島でただ人一人となった私は毎夜,波の音を聞きながら孤独に耐え,己の今後について考えるだろう。
「このままここで朽ち果ててくのか?」
「明日はどうやって食糧を手に入れよう?」
ただ,「無人島に一人(かどうかも分からないが)」という場面設定があるだけで,他にはなんも決まってないのに,私はなぜかそこにサバイバルというか,諦念に似た感情を抱くであろうと想像してしまう。
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得体の知らない不安に押しつぶされそうになりながら,そんな中で聴きたい曲ってなんだろうか。
①単純に,気持ちが沈む曲は嫌だ(死にたくなる)。
②だからと言って,底抜けに明るい曲もなんだか腹が立つ。
③昔の記憶がよみがえってくるような曲は危険だ(昔を思い出して死にたくなる)。
①,②に関しては説明不要だと思うが,③に関して言えば昔聴き込んだアルバムの曲は,もれなく当時の心象風景もセットでついてくる。
そういった,昔の思い出云々を抜きにして,ただ「音楽」というエンターテイメントとして一瞬でも,現実を忘れて楽しみたい。
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そのあたりまで考えて,ようやく一枚のアルバムにたどり着いた。
無人島に一枚持って行くなら,これしかない。
YMOの「増殖」だ。
このアルバムについては,実は以前も紹介している。
本当に,「無人島レコード」に相応しいかどうか,もう一度聞いて確かめてみようと思ったが,サクッと全編聴いてしまった。
とてもライトで,シュールで,それなのに不思議なスマートさを併せ持った奇跡のアルバムだ。
構成は,曲間を「スネークマン・ショウ」というラジオ番組(MC)でつないでいるというものだが,この「スネークマン・ショウ」がたまらなく笑える。
なぜだろう?何回聴いても笑えるのだ。
「警察?ここは警察じゃないよ?」(車の中に立てこもる男と,男を職務質問する警察官)のコントも
中国に落語をしにきた噺家のコント(明らかに滑ったかに思われるネタも通訳のため時間差で爆笑の渦となる)も
「現代のロックを批評する」というテーマで始まった評論家の議論も必ず「ロックには,いいものもある。だけど,悪いものもある。」で終わってしまうコント(しかも,「YMOが・・・」と口にした評論家のセリフが毎回必ず他の誰かにかき消される)。
ひょっとしたら,「スネークマン・ショウ」のほうがメインで,曲がおまけじゃないかとも思ってしまうが,脇を固める楽曲も(脇じゃない!)「ナイス・エイジ」「タイトゥン・アップ」と名曲ぞろい。
無人島に一人とはいえ,このアルバムを聴いている時間だけは,たぶん色んなことを忘れて,純粋にこれだけを楽しめると思う。
だからと言って.生きる気力がわいてくるとか,そんな類の作品ではないのだが。
「無人島レコード」としての選出は,この「増殖」。
断っておくが,「無人島レコード」=人生におけるオールタイム・ベストというわけではない。
私の人生におけるベストアルバムは,ストーンローゼズの「ストーン・ローゼズ」か,オアシスの「モーニング・グローリー」か,ストロークスの「イズ・ディス・イット」か,ベックの「カラーズ」だ。
多いな。
でも,これらのアルバムはあまり,無人島で聴こうとは思わない。
思い入れが強すぎるから。
センチメンタルになってしまうね。
ほどほどでいいんです。無人島だから。