80年代の知られざる名盤を発掘した時に思ったこと
以前,ジャズについて書いた記事の中で,昔足繁く通っていたレコード屋のことを紹介した。
そのレコード屋でCDを漁っている時に,店の中でかかっていたBGMがあまりにキャッチーで,一聴して気に入ってしまった。
それがこの曲だ。
跳ねるようなギター,曲に彩りを加えるトランペット。
80年代ポスト・パンク,ニューウェイヴの雰囲気がびんびん伝わってくる。
多分バグルスが「ラジオスターの悲劇」をヒットさせた頃だ。
一体,何というバンドの曲なのだろう?
気になり出したら,もう目の前で漁っているCDのことなんて頭に入らなくなる。
私は意を決して,カウンターにいた男性店員のところへ向かった。
「今かかっているこの曲,なんていうやつですか?」
と尋ねると,店員は少し驚いた様子だったが,すぐに
「ああ,これですね。」
とCDのジャケットを見せてくれた。
「Haircut100というイギリスのバンドです。」
初めて聞くバンドだし,初めて見るジャケットだった。
「すいません。これ,買うことはできますか?」
恐る恐る尋ねてみると,店員は快諾してくれた。
オーディオの停止ボタンを押すと,中からCDを取り出した。
途端に,店内は静寂に包まれる。
通りに面した店だったので,車のエンジン音など外の喧騒が耳に入るようになった。
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Haircut100というバンドは,80年代初めにこの「ペリカン・ウエスト」というデビューアルバムでスマッシュヒット(と言っても全英2位だから,なんとも地味)を飛ばし,その後セカンドアルバムを出した後活動期間わずか4年で解散した。
ファッションセンスも秀逸だと思いませんか。
ジャケット写真でメンバーが着ているセーターの着こなし方にも英国人らしい粋を感じる。
演奏に関して言えば,陰陽で言えば明らかに「陽」のタイプで,要所でのカッティングギターやトランペット,コーラスの使い方に非凡なセンスを感じる。
同じイギリスで90年代初頭に活躍したThe La's(「There She Goes」で有名)あたりは,音の構成なんかがよく似ていて,ひょっとすると影響を受けているのかも知れない。
いずれにせよ,時代の徒花として忘れ去られるには勿体ないバンドだ。
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ところで,外出した時など,出先で入ったお店なんかで流れているBGMが気になって曲名を知りたくても分からなくて困った経験はないだろうか?
今回のエピソードのように,レコード屋でのことなら,店員に尋ねれば事足りるが,居酒屋など他業種のお店では店員も知らない場合も多い。
大学生の時に,そういう「いい曲だと思うけど曲名もアーティスト名も分からない」曲の名前を当てるのが得意な友人がいた。
流れてくる曲に耳をすませていた友人が,
「多分これ○○という曲だよ」
と言うので曲名を携帯で検索してみると,驚いたことに当たっているのだ。
なんで分かったの?と尋ねてみると,
「歌詞を聴いて,キーセンテンスがどれかを想像すれば,なんとなく分かる。」
と言っていた。
きーせんてんす?
つまり重要語句のことか?
試しに私も別の曲で挑戦してみるが,一向に当たらない。
どうやら,文脈を読み解くセンスに著しく欠けているようだ。
「この曲の名前は?」とSiriに尋ねても
「よく聞こえません。」と言われるのが関の山だろう。
まあ,きっとそのうち,音声認識に長けたAI技術が開発されて,こういう問題も簡単に解決されるようになるのでしょう。
だけど,当たらないとは言え曲名を想像して遊んだり,店員に尋ねたりすることが心に引っかかって,こんなふうに思い出すものだから,それはそれで趣深いと言えなくはない。
便利さ効率のよさも大切。
だけど不便なのも,たまにはよいものです。