最高峰の男たち
ここ数日,どうにも「ジャズづいて」いて,朝からずっとスタン・ゲッツやらジョン・コルトレーンをかけている。
ジャズって,スタジオ録音にしても,結構ワンテイクでアドリブありきなことも多いらしく,長々としたアドリブセッションの末,ようやく最初の旋律が戻ってきたり,ソロの応酬があったりで,聴いていてなかなかにスリリングだし面白い。
そう考えると,昔目にしたあるライブの一場面で,かなりスリリングなステージセッションだったのだけど,結構ジャズ的というか,自由奔放だったなあと思い出していた。
それは10年以上前に観たライブドキュメンタリー映画の一場面なのだが,何度観返しても,いつでも新鮮な驚愕と確信をもたらしてくれるのだ。
ただ,そこで繰り広げられる出来事がいかに衝撃的であったかを伝えきれる筆力が自分にあるのか,という点では甚だ自信がない。
それでも,やってみようと思う。
書きたい時に書くべきだから。
私が書きたいのは,「タクシードライバー」で有名な,マーティン・スコセッシがメガホンを取ったローリングストーンズのライブドキュメンタリー映画「シャイン・ア・ライト」の一場面。
一度,チャーリー、ワッツへの追悼も兼ねて当ブログでも紹介している。
今回取り上げたいのは,実はストーンズのメンバーではない。
それは,ライブにゲスト参加したメンバーだ。
「シャイン・ア・ライト」には,アメリカのビーコンシアターで敢行された一夜限りのプレミアムライブまでの顛末と(セットリストをなかなか渡してくれないミックとスコセッシの漫才みたいな掛け合いが中心だけど)当日のライブの一部始終が収録されている。
このライブには豪華なゲストが訪れた。
まずは,クリスティーナ・アギレラ。
言わずと知れた歌姫だが,キースにからかわれながらも,ミックのボーカルと堂々と渡り合い,解き放たれたようなハスキーボイスで会場を魅了した。
次に,ジャック・ホワイト。
ホワイト・ストライプスのフロントマンとしてガレージロックリバイバルのムーヴメントの先頭を駆け抜けてきたトップギタリスト。
しかし,ストーンズをリスペクトするあまりか,ライブでは萎縮したような場面が目立ち,いつもの奔放なギタープレイは影を潜めた。
そして,バディ・ガイである。
バディ・ガイはこのライブ当時,確か70歳前後。
ストーンズよりも年長だ。
キャリアも長く,海外のフェスを長らく転戦してきた伝説のブルースギタリストだ。
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この日,ミックの紹介で拍手を受けながらステージに上がったバディは,ハットに黒いジャケット,黒地ドットのストラップに白地ドットのギター。
まずはイントロで軽くジャブを鳴らす。
にこやかなナイス・ガイだ。
サビでミックからマイクを明け渡されると,まさに戦慄のボーカル。
ミックも思わずのけぞるほどの魂のこもった歌声に会場からは大歓声。
さらに
「ヘイ,ミック!」
と挑発し,ハーモニカでソロをかますミックを,7,8秒じっと見つめる。
じっと。
この時の何とも言えない表情が痺れる。
もう,なんとも言えないのだ。
私は男として思う。
こんな表情ができる男になれたら,次の瞬間死んでも悔いはないと。
そのまま間奏のギターソロになだれ込むと,即座にキースが歩み寄り,バディとソロの応酬を始める。
そうだろう。このバンドでバディと張れる男はこの男だけだ。
言っちゃ悪いけど,ロン・ウッドなんて周りでちょこまか動き回っていたけど,この二人と比べたら鼻垂れの小僧っ子みたいなものだ(決してロンのことが嫌いなわけではありません)。
そう思っていたら,ミックのハーモニカソロが始まった。
そこにバディも歩み寄り,今度はハーモニカとギターソロの応酬が始まった。
こちらもかなりの迫力だ。
ごめん,ミック忘れてた。
やっぱミックとキースの二人はさすがだ。
しかしそれ以上に,なんだこのおじいさん(失礼)。
凄すぎる。
2回目のサビが始まる。
バディがマイクに向かう。
一回目を軽く凌駕する渾身の歌声に,観衆はもはや驚きとも嘆息とも判じかねる声を漏らす。
圧倒的だ。
声に情念が宿っている。
最後はチャーリーの力強いドラミングで締めくくる。
ミックが手を挙げ,再びバディを紹介する。
「バディ・マザー・ファッ◯ー・ガイ!」
というアナウンスは勿論大事なところだけ消されていた。
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この6分ほどの「シャンペン・アンド・リーファー」には,私が音楽に求める全てが入っている。
楽しくて,スリリングで,格好いい。
痺れますよ,まじで。
一杯やりながら観てください。