音楽と服

音楽と服について好き勝手に語ります

ボブ・ディラン,その音楽性の変化とファッション考察

コロナでの療養も1週間が経った。

ぼちぼち味覚・嗅覚障害も改善されてきた。

 

コーヒーの匂いも分かるようになってきた。

匂いや味を感じられるって,とても幸せなことです。

 

今回罹患して一番よかったことは,そんな当たり前のことを再確認できたことかもしれない。


 ところで,最近家にいて特にやることもないので,CD棚を眺めて改めて収集してきたCDのジャケットを手に取って見たり,聴いたりしていた。


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1「The Freewheelin’」(1963)

その中で

「このアートワーク,なんかいいな。」

と感じたのがボブ・ディランのアルバム「The Freewheelin’」のジャケット。

「The Freewheelin'」(1963)

当時のガールフレンド,スーズとの2ショット。

雪の積もった街を身を寄せ合いながら歩く二人。

 

ただそれだけの写真なのだけど,カメラ目線でにっこりとほほ笑むスーズに対し,ディランはポケットに手を突っ込んで下を向いている(照れ隠しか)。

 

「BOB」と「DYLAN」のロゴが,ちょうどそのディランの頭の左右に配置され,上部に「THE FREEWHEELIN'」というアルバムタイトルが。

さらに,収録曲がジャケット下部の左右にバランスよく印字されている。

 

文字色の使い方も絶妙で,お洒落なアートワークだなあ,と思った。

 

 

ボブ・ディランという人物はメディア嫌いで有名で,結構謎が多いのだけど,そのファッションセンスに関しては,若いころから一貫してスタイリッシュだ。

 

流行りには流されず,あくまで自分のスタイルを貫いていて,基本的には60年代も現在も大きな変化はない。


時代ごとに音楽性とともに,そのファッションも大きく変化させていったデヴィッド・ボウイとはまるで対照的だ(ほぼ同世代な二人なのだけど)。

 

この「The Freewheelin’」のジャケ写では,茶色のジャケット(おそらくスエード生地)に紫色のシャツ,ストレートデニムというシンプルなスタイルだが,細部のサイジングは計算されていて,すっきりとしたシルエットになっている。


ところで,この時期のディランは「フォーク」というジャンルでギターを弾き,ハーモニカを吹いていた。

突如エレキギターに持ち替えて演奏し,「ロックに転向した」と一部フォークファンから批判を浴びる二年前の話だ。


ボブ・ディランがそのキャリアのスタート地点において,フォークというジャンルで歌い,ファンを獲得していった背景について「ロッキング・オン」で以下のように綴られている。


ディランがそのキャリアの駆け出しにおいてフォークに向かったのは,50年代末のロックンロールやポップが極端にコマーシャルで水増しされた子供向けなものになってしまったからで,フォークならルーツ・ミュージックなどで経験した衝撃を織り込むことができたからだ。

text by 高見展 「ロッキング・オン」2007.3

 

この「The Freewheelin'」というアルバムにおいても,かき鳴らされるギター,ハーモニカの音色に乗って矢のように繰り出されるディランの鋭いリリックは,「フォーク」というどこか牧歌的な印象を受けがちなジャンルの音楽というよりは,攻撃的なラップが降り注ぐヒップホップのよう。


ボブ・ディランはフォークがやりたかったのではなく,自分の伝えたい言葉がまずあって,それが最も伝わり易いフォークという形態を取っ掛かりにしたのだろう。


もし,彼がもう少し後の時代に生まれていたら,ヒップホップなど別の形態を選んだとしても不思議はない。

 

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2「追憶のハイウェイ61」(1965)

 ロックに転向したボブ・ディラン

そのエレクトリック・サウンドが物議を醸していた頃のアルバム。

「追憶のハイウェイ61」(1965)

当時のディランが音楽性の変化についてのインタビューに答えたのが,以下の記事だ。

変化?きみのいうことは,ぼくにはよくわからないね

対して変ってないな。ぼくは今も同じ人間だもの

ぼくは自分のレコードをあまり聞かないので,きみほどには変化に気づかないのかもしれないね。

ぼくはなりゆきにまかせてきた。ぼくの変化の仕方というのは,そんなものさ。自然に起こったことなのさ。

ぼくは,すべて自然のなりゆきのままに行動するのさ

「追憶のハイウェイ61」ライナーノーツより引用


メディア嫌いの彼のことだから,煙に巻いたとの見方もできそうだが,意図的にせよ自然な変化にせよ,自分の伝えたい言葉をより伝え易くするために,エレクトリック・サウンドが有効だと感じてのことだとは想像できる。 

 

ところで,当時の彼のファッション にも,ほんの少し変化が見られる。


総柄シャツに,ロゴがプリントされたTシャツというラフなスタイル。

彼の全キャリアを見渡しても,ここまでカジュアルなスタイルにはなかなかお目にかかれない。


エレキ・サウンドに鞍替えしたことは,「大した変化ではない」と語っていたが,ファッションの微妙な変化からは心機一転を図りたい彼の心理が想像できる。

 

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3「ブロンド・オン・ブロンド」(1966)

その一年後,ディランは新作「ブロンド・オン・ブロンド」を発表する。 

「ブロンド・オン・ブロンド」(1966)

このアルバムアートワークでは,こげ茶色のジャケットに柄物のストールを巻くシンプルなスタイルのディランが正面を見据えている。

そして,何故かピンボケの写真が使われている。


髪の毛の色,ジャケットの色が同系色で,白黒のストールが程よいアクセントになっている。


 

 ボブ・ディランは2016年にノーベル文学賞を受賞したことで,ロックファン以外にもその名を知られるようになった。


言葉に対する研ぎ澄まされた感覚は,キャリアの終盤に差し掛かっているであろう2000年代以降も変わらない。

 

また,ファッションに対するこだわりにも注目すべきだろう。

決して派手さはないが,自分のスタイルを持った人だ。


慎ましやかに見えて,きちんとした身なりにもキラリとセンスが光るというスタイルには,正直憧れる。


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ところで,私が20代の頃,ボブ・ディランの曲で一番好きだったのは「ライク・ア・ローリングストーン」だった。


その嗜好も少し変わってきて,30代も半ばを過ぎてから,最も聴いているのは「I want you」だ。

シニカルな歌詞をハーモニカと早弾きギターで奏でる,不思議な奥行きのある曲。


ディランが書く詞は,いつもどこかシニカルだ。


棘のある詞も多く,まるで聴き手を挑発しているようにも思えるが,それが妙に引っかかるのだ。


現代社会や時代の移ろいを風刺するような内容もあり,ドキリとすることも。


表現者として半世紀以上も世の中を見つめ続けた彼の言葉に,今こそ耳を傾ける必要があるのかな,という気がする。



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