音楽と服

音楽と服について好き勝手に語ります

YMOとメタファイヴの「制服」比較から,内包されたメッセージを読み解く

朝から仕事をしながら,YMOの「パブリック・プレッシャー」(1980年)とメタファイヴの「METAATEM」(2022年)を繰り返し聴いている。

 

sisoa.hatenablog.com

 

最近,YMOのメンバーが着ていた「人民服」についての考察記事を書いたせいで,高橋幸宏関連のCDを聴くことが多くなっていたのだが,そんな中気づいたことがある。

 

YMOとメタファイヴのメンバーが,ライブやアルバムジャケットで着ている「制服」がよく似ているということだ。

 

念のために説明しておくと,YMO細野晴臣坂本龍一高橋幸宏によって結成されたグループ。

コンピューターとシンセサイザーを駆使した新しいサウンドで1980年前後に世界進出を果たし,日本でも大ブレークして後進の多くのバンドに影響を与えた偉大なバンドだ。

 

メタファイヴは,高橋幸宏を中心に,小山田圭吾コーネリアス),テイ・トウワ砂原良徳(元電気グルーヴ)らで結成されたスペシャル・ユニット。

2015年から2022年まで活動し,2枚のフルアルバムと1枚のミニアルバムをリリースした。

 

私は,何事も「比較」することが好きである。

ある事象とある事象を比べて,その意図や時代背景を探っていくことで新しく見えてくるものがあるからだ。

 

今回も,YMOとメタファイヴの「制服」の写真を比較しつつ,そこに隠されたメッセージを読み解いていきたいと思う。

 

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YMOの「制服」

YMOの制服,通称「人民服」については,以前の記事でも触れている。

 

有名な真っ赤な上下は,実は本物の人民服ではなく,スキーウェアをアイデアソースとして,高橋幸宏(中央)がデザインしたもの。

YMO(1979年) 青野賢一「音楽とファッション」より

ジャケット風のセットアップのボタンを一番上までつけ,胸には揃いのバッジ。

(バッジはフランスのテレビ・ラジオ局のものらしい)

 

この「人民服」に関しては,「音楽とファッション」著者の青野賢一氏は以下のような私見を述べている。

ところで,日本においてYMOに反応したひとの多くは若者ーわたしのような小学生を含むーだったが,当時の大人の目にはどう映っていたのだろう。世界発売盤「Yellow Magic Orchestra」のアートワークにみられる,ある種誤解を生じさせる表現や,「人民服」などの「制服」,あるいは〈フジカセット〉のCMでメンバーが演じた,欧米人が考える典型的な日本人ー首からカメラをさげ,ペコペコお辞儀をし,名刺交換するーといったもろもろを,わたしなどは一切のネガティブな感情なしに無邪気に,そしてある程度は本来の意図も汲みつつ楽しんでいたのだが,逆に言えば,YMOの音楽や表現がそれまで積極的に音楽に触れてこなかった若い世代に突き刺さったからこそ,大きなムーブメントになったとも考えられそうである。

青野賢一「音楽とファッション」より引用

 

世界進出を目論んだYMOが打ち出したのは,「外国人が見た日本人の典型的な姿とのギャップ」を狙ったイメージ戦略だった。

 

制服を着ていて腰の低いといった,ベタな姿の日本人が鳴らす,シニカルなメッセージを内包しつつも先鋭的なダンス・サウンドは海外でも高い評価を受けた。

 

面白いことに,「海外向け」のイメージ戦略は,当時の日本の若者にも受けた。

 

彼らのファッションと音楽は,リスナーの様々な想像を搔き立てるものだったからこそ,広く受け入れられたのではないだろうか。

 

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メタファイヴの「制服」

そのYMOに所属していた高橋幸宏が結成したのがメタファイヴだ。

 

2016年にリリースされたミニアルバム「メタハーフ」のジャケットには,「制服」を着たメンバーが佇んでいる。

METAFIVE(2016年) ミニアルバム「METAHALF」より

3人(LEO今井,高橋,小山田)とも揃いの黒シャツを着ている。

ボトムスも黒で合わせている。

 

胸には真っ赤な「META」という文字がプリントされている。

 

この「多様性」が叫ばれる時代に,「制服」とは。

時代を逆行しているという見方もあるかもしれないが,私はそうは思わない。

 

メンバーの服装をよく見ていこう。

 

高橋(中央)は黒のハンチングを被り,小山田(右)もまたトレードマークと言えるハットを被っている。

LEO今井レイバンのサングラスをかけ,右手首にはリストバンドをつけている。

 

最低限の縛り(黒シャツ,黒ボトム)はあるけど,着こなしには個性があり,メンバーそれぞれの色がしっかり出ている。

 

キャリアも年齢も様々な「大人」が集まってきてバンドを組み,揃いのユニフォームを着て演奏するのだ。

 

ライブDVDを観たが,ビジュアル的にも研ぎ澄まされていて,恐ろしいほどにスタイリッシュなライブだった。

 

互いの立場や考えは違っても,人は手を取り合い,これまでになかったもの・誰かを熱くさせるものを創り上げることができるー。

 

そんな彼らの意思を,お揃いの「制服」とその胸に刻まれた「META」の文字が代弁しているようだった。

 

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ところで,彼らの胸にプリントされていた赤囲みの「META」。

「メタハーフ」のブックレットでは,下のように表現されていた。

 

「METAHALF」ブックレットより

ここにも赤囲みで「METAFIVE」。

 

こういう細かなセンスが,何とも言えず好きです。




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