その切なさの正体は〜スピッツ「ハチミツ」雑感〜
我が家にはスピッツの「ハチミツ」というアルバムが2枚ある。
理由は簡単で,私の分と妻の分。
左の箱入りが私ので,右のが妻の。
お互い高校時代に買って,それぞれ所有していたのが,我が家で合流したというわけだ。
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ちょうど「2021年ベストバイ」の記事を書いているときに,私がスピッツの「スピカ」を聴き直していたら,妻が
「私は鳥の歌が好きだなー。」
と言い出した。
いつも通り唐突で曖昧模糊としたリクエストをする妻だが,そこはもう10年以上の付き合い。
彼女がどの曲のことを言っているのか大体想像できる。
CD棚から「ハチミツ」を取り出して,9曲目を再生した。
やがて 君は鳥になる
ボロボロの約束 胸に抱いて
悲しいこともある だけど夢は続く
目をふせないで
舞い降りる 夜明けまで
「Y」より
そう。
この「Y」は,彼女が言う通り「鳥の歌」なのだ。
正確に言えば,「暗喩として鳥になる歌」なのだろうが。
歌詞中の「君」は,遠くに行ってしまったのだろうか。
それとも,亡くなってしまったのだろうか。
いずれにしても,「喪失」を歌っていることは間違いない。
「君」がいない日常で,主人公が現実と向き合いながら,それでも生きていこうとする心象風景が映し出されていく。
切ない。
そう。
この「ハチミツ」は,スピッツのオリジナルアルバムで一番売れた代表作であるが,その根底には一貫して「切なさ」がある。
「愛のことば」では,一読して抽象的な歌詞で独特な世界観が歌われる。
サビも好きだが,私はこの曲の,言葉のチョイスに惹かれる。
例えばこの歌詞。
優しい空の色 いつも通り彼らの
青い血に染まった なんとなく薄い空
「優しい」空の色を,「彼ら」の「青い血」に例えるセンス。
言葉では伝わりづらい,不穏な雰囲気が漂ってくる。
そんな空の色を「薄い」と表現するのも,正体不明の不安感を逆に際立たているようにも思える。
この曲はサビが切ないのだ。
「もうこれ以上 進めなくても 探しつづける 愛の言葉」なのだから。
私は高校生の頃,貪るようにこの曲を聴いていた。
歌詞の意味はよく分からなかったが,自分で勝手に解釈して感情移入していた。
不思議なもので,大人になって改めて聴いてみると,あの頃考えていたことや,胸の痛みまでありありと思い出されるのだ。
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これはスピッツのインタビューでギターの三輪テツヤさんが語っていたのだが,作詞を担当する草野マサムネから歌詞をもらっても,どういう意味なのかは教えてくれたことは一度もないそうだ。
だからメンバーすら,その真意は分からないという。
草野マサムネ氏は語っていた。
意味はリスナーがそれぞれ考えてくれたらいい。
聴き手に委ねると。
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私は過去記事の中で,
「マサムネ氏の書く歌詞には,あまり深い意味はない。」
といった趣旨のことを書いた覚えがあるが,最近昔のアルバムを聴き返しながら,その認識を改めつつある。
実は物凄く文学的な意味を含んだ歌詞なのではなかろうか。
先の「鳥」や「血」などの暗喩を用いた詞も,意味付けはリスナーに委ねられているとは言え,強いメッセージ性があることは間違いない。
宮沢賢治の童話と似ているかも知れない。
そう考えると,こういう寓話的なポートレートも何か訴えかけるものがあるように思えてくる。
洒落てますよね。
ところで,「ハチミツ」のアルバムのジャケットの女の子。
長らく顔がわからないと思っていたうちの妻。
実は,箱入りCDでは顔出しされているのを最近発見して,驚いてました。
結構可愛いじゃん!ってね。