せまいハコが好きだ。なぜなら・・・
ずいぶん長いことライブに行っていない。
コロナだからということもあるけど,育児に追われる嵐のような日常の中で,
「ちょっとライブ行ってきます。」
というのはだいぶハードルが高い。
以前読んだ記事の中で,どなたかが書かれていたが,ブラジル人はリオのカーニバルのために生きているのだそうだ。
一年間,カーニバルのために働く。
なんだかとてもシンパシーを感じてしまった。
私もそういうタイプの人間だと思う。
夏にフジロックに行くことを励みに日々あくせく働く。
フジロックは一年のピークだ。
前夜祭も含めフジロックの4日間,爆音とマイナスイオンとハイネケンを洪水のように浴びて,
「もうお腹いっぱい。家に帰りたい。」
と思うまで楽しんだら,また一年頑張れるのだ。
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しかしまあ,幼い3人の息子と妻を置いて,一人4日間もフジロック遠征を敢行するのは現状では不可能に近い。
2016年を最後に参戦できていないが,あと5年くらいしたらまた行けるだろうか。
単発のライブならまだハードルが低い。
しかし,ふり返ってみると,年間10本以上ライブ会場に足を運んだ年もあったが,アーティストのワンマンライブに行ったのも2015年が最後。
最後に行ったのは誰のライブだったか…
記憶をたどっていくと,思い当たった。
アラバマ・シェイクスだ。
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ボーカルのブリタニーのパフォーマンスと声が兎にも角にも圧巻で,そのサウンドは唯一無二だった。
グラミー受賞バンドでもあるので,わりと名前は知れていると思う。
500人規模の,薄くスモークがたちこめる狭いライブハウスで,ブリタニ―のシャウトを聴いた夜のことは忘れられない。
12月の寒い夜。
何とか仕事に目途をつけ,スーツのままライブ会場に駆け込んだ。
開演時間ほどなくしてステージに現れた四人は,MCもそこそこに演奏を始めた。
空気を震わすようなブリタニーの歌声には魂というか言霊のようなものがこもっていて,仕事とプライベートでトラブルを抱えて疲弊しきっていた当時の私の胸に確かに刺さった。
「いいライブを観たな。」
帰り道,白い息を吐きながらしみじみと呟いたことを覚えている。
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「せまいハコ」のライブ体験として忘れられないのがもう一つ。
2006年のエル・プレジデンデだ。
彼らはイギリスはグラスゴー出身の5人組ロックバンドで,プリンスに強い影響を受けたグラム・ロックスタイルが売りだった。
「ロッキング・オン」のヘッドラインでも紹介されたことがあり,サマーソニックへの出演歴もある。
写真はボーカルのダンテと,ドラムのドーン・ツー。
バンドの主要人物であるダンテは常に「伊達男」の枕詞とともに紹介されていて,太眉の濃い顔立ちとハイトーン・ボイスが特徴。
これより以前は「GUN」というバンドでベースを弾いていたそう。
ヘッドライン記事の最後は
こういうバンドは,フランツ(・フェルディナンド)並みのスターダムに駆け上がるか,時代の仇花に終わるかのどちらかだ。
もちろん僕は前者に賭けるぜ!
という言説で締めくくられていたが,残念ながら結果的に,後者になってしまったようだ。
それでも,私は彼らの1stアルバムに心酔していた。
妖艶でメロディアスな楽曲群のクオリティは高く,アルバムとしてのトータルバランスも非常によかった。
さらに,アルバムにはライブチケット引換券が封入されていた!
なんと地元の小さなカフェで,彼らのライブが開かれるそうなのだ。
ライブ会場になったカフェは古着街の一角にあった。
店の前に小さな立て看板があり,「エル・プレジデンデライブ会場」と貼り紙がしてある。
「結婚式の二次会みたいだな。」
と思ったのを覚えている。
階段を上がって二階に上がると,狭いスペースに小さなステージがこしらえられ,木の椅子が50席ほど並べてあった。
「ロッキング・オン」でヘッドラインを飾ったバンドが現れるとは思えないような規模だった。
私は友人と二人で来ていたが,わりと早い時間帯だったので前から2列目の席を確保することができた。
時間が来るまでにカフェのワンドリンクを飲みながら,友人と就職先での苦労話に花を咲かせていると,徐々に人が増えてきた。
来るだろうなとは思っていたが,音楽業界やプレス関係者と思しき人も数名交じっているようだった。
開演時間を数分回ったところで,バンドの面々がステージに登場した。
ダンテはトレードマークの真っ赤なジャケット。
ドーンは,雑誌のインタビュー時と同じ,シックなブラウン系のモザイク調ワンピースをさらりと着こなしている。
1曲目は,いきなり「Without you」。
彼らのスタイルでのアコースティック・セットはどんなものかと思っていたが,予想していたよりも演奏技術が高いバンドだった。
ドーンはパーカッションで,
ドレッドヘアがトレードマークのトーマスがベースで確実にビートを刻み,
ギタリストのトーマスはアコースティックギターでメロディアスなプレイ。
キーボードのローラのコーラスは,このバンドにおいて想像以上に強い存在感を放っていた。
そして,なんと言ってもダンテのボーカル。
シンプルに歌が上手い。
低音域から高音域まで幅広い音域をカバーし,多彩なバンドサウンドを完全に掌握している。
最後はプリンスの名曲「ラズベリー・ベレー」のカバーで締めくくり。
5曲ほどの短いセットリストだったが,心に残るライブだった。
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ライブなら,せまいハコが好きだ。
なぜなら,空気を通して音の振動が伝わってくるから。
アーティストの息遣いが聞こえてくるから。
コロナ禍で,オンラインライブの在り方とか,バーチャルでどれだけ精度を上げてライブ体験できるかという方向にばかり話が行きがちだけど,そもそも家にいながらにして体験できるツールには限界がある。
ライブに近づけることは出来ても,やはりそこは別物だ。
むしろラジオで音だけを聴く方が,よっぽどリアルに感じられる。
作り物も,ヒトの想像力にはかなわない。
せまいハコが好きだ。
世界は変わってしまったが,自分の目で見る,体験するという機会は,これからも大切にしていきたいなあと思います。
では,よい休日を!