「音楽」へのリスペクトに溢れたYOASOBI「THE BOOK Ⅱ」を聴いて
YOASOBIのCDを買った。
だから何?
と言われたらそこまでだけど,私がですよ。
いつものCD屋で買った。
かれこれ10年近く通っている店だから,店員にも覚えられていると思う。
洋楽やジャズなどのCDを中心に買っていくので,「わりと硬派なチョイスをするねこの人は」くらいの認識はもたれているのではないか。
過剰な自意識だとは思うが。
だからというか,YOASOBIのCDを買うのは抵抗があった。
私自身の器の小ささだと思うが,世のメインストリームに浸かってしまうことに対する抵抗感だ。
ではなぜYOASOBIのCDを買うことになったかと言うと,仕事で必要になったからだ。
なぜ仕事で?という説明をしているとややこしくなるので割愛するが,ともかく必要になってしまったので買いに行くことにした。
欲しいのは「ツバメ」という曲の音源だ。
この曲はEテレでもずっと流れてるので,特に子育て世代の方はもはや耳タコだろう。
で,この曲だけが欲しいならアップルミュージックなどで一曲のみダウンロードすれば終わりなのだけど,生憎私はサブスクを利用していないアナログ人間のため,CDというフォーマットに頼るしかない。
調べてみると,「ツバメ」が収録されているCDは「THE BOOK Ⅱ」というアルバムのみであるようだ。
しかも,このアルバムが完全限定生産で,金額は4500円(税抜)!!
「高っっ。」
と思ったが,行きつけのCD屋に一枚だけ置いてあったので,やむなく手にしてレジへ向かった。
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そうして手に入れたのが,この「THE BOOK Ⅱ」だ。
デカい。
測ってみると,19cm×18cmあった。
通常のCDが14×14なので,ひと回りは大きい。
特筆すべきはジャケットがバインダー仕様になっていて,歌詞付きのブックレットを綴じるという斬新なつくりになっていること。
こんな感じ。
歌詞は当然書いてあるのだけど, イラストや歌詞のストーリーをふくらませたような絵本形式になっていて,まるで読書をするように,この作品の世界に浸ることができるのだ。
仕事で必要に駆られて購入したが,私はもともと「ツバメ」という曲はテレビから流れているのを聴いていて結構気に入っていた。
テレビでよく歌われるのは1番だけのことが多いが,2番の歌詞は実は結構深い。
誰かが手に入れた豊かさの裏で
帰る場所を奪われた仲間
本当は寄り添い合って
生きていたいだけなのに
悲しい気持ちに飲み込まれて
心が黒く染まりかけても
許すことで認めることで
僕らは繋がり合える
僕らにいまできること
それだけですべてが変わらなくたって
誰かの一日にほら
少しだけ鮮やかな彩りを
歌詞やブックレットの中では,環境破壊に悩むツバメの姿で描かれている。
しかし,これは一つのメタファーだ。
現実社会への強い問題提起が内包されているように思える。
「誰かが手に入れた豊かさの裏で 帰る場所を奪われた仲間」
私たちは「消費大国」日本に住んでいて,様々な食料品やファストファッションなどを世界中から輸入して日々消費しているが,その裏で搾取され続ける人々がいることが現実だ。
「本当は寄り添い合って 生きていたいだけなのに」
そうした「生産国」で生きる人々の方が,環境変化の煽りを一番に受けてしまう理不尽さから目を背けながらこれまで通りの消費活動を続けていれば,私たちは自分の子どもたちの世代が安心して生活することができる地球環境を残すことはできないだろう。
「僕らにいまできること それだけですべてが変わらなくたって
誰かの一日にほら 鮮やかな色どりを」
自分が動いたところで全てを変えることはできないけど,できることを積み重ねることで誰かの「一日」をほんの少し変えられたら・・・。
ブックレットをめくりながらこの曲がもつ,そんなメッセージについて思いをはせることができる。
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この重厚なつくりの「THE BOOK Ⅱ」は,「何事もシンプルに」というミニマリスト的発想からは,少し離れているかもしれない。
でも,私は自分が選んで聴く音楽には「物語」を見出したいし,そこからその音楽をつくった人のメッセージを自分なりに受け取りたいと強く願っている。
CDを買い続けているのも,曲だけをダウンロードして消費して終わり,というのが何だか音楽を使い捨てにしているというか,ないがしろにしているような気がして後ろめたいというのが本音だ。
そんな人間にとって,この「THE BOOK Ⅱ」は,「音楽」へのリスペクトに溢れたとても真っ当な表現の在り方であるように思える。
SDGs的には矛盾しているのが非常に悩ましいところではあるが…。
私はCD世代だが,レコードを収集することが好きな人たちも,実は似たような感覚なのではないのかな…と想像してしまう。
大きさの規格が他と違い過ぎるので,CD棚にうまく収まらないのが悩みどころではある。
だけど,表現の在り方についてもう一度考えさせてくれる,とてもいい作品です。