音楽と服

音楽と服について好き勝手に語ります

101回目のプロローグ

Perfumeのあーちゃん,のっち,かしゆかの髪型がデビュー当初から変わらないのは,それぞれのキャラクターイメージを覚えてほしいからだそうだ。

 

彼女たちのように,ある種の「記号性」で売っているアーティストというのは,わりといそうであまりいない。

 

ぱっと思い浮かぶのは,いつも黒服を着ているサカナクションの山口一郎くらいだろうか。

 

この手のアーティストは,当ブログのコンセプトとしてはかなり重要な位置付けになる。

なぜなら,「記号性」はファッションと深く結びついてくるからだ。

 

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眼鏡にドットのシャツ,シルバーのタイ。

タイトなスーツに身を包んだエルヴィス・コステロハッセルブラッドのカメラを構えて正面を見据えている。

 

中古レコード屋でこのジャケットを見つけたときには,あまりの格好良さに迷わずジャケ買いしてしまった。

 

エルヴィス・コステロの2nd「ディス・イヤーズ・モデル」。

 

このアルバムが素晴らしいのはジャケットだけではない。

内容も負けてはいない。

 

デビュー作(「マイ・エイム・イズ・トゥルー」)に比べて,幾分パンク色が濃くなっているが,アトラクションズによってより肉厚かつスタイリッシュに刷新され,そこにコステロの泣いてるような怒っているような声が重なる。

 

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コステロがデビューしたのは1977年。

 

世にパンクロックの嵐が吹き荒れていた時代だ。

イギリスからはセックス・ピストルズやクラッシュが。

 

アメリカからはニューヨーク・ドールズラモーンズが出てきて,それぞれの怒りや何やらもろもろの感情を,叩きつけるように曲にこめて表現した。

 

彼らのうちほとんどが,革のライダースジャケットやタイトで破れたジーンズを履いて,煙草をくわえていた。

 

そんな情勢下,デクラン・パトリック・アロイシャス・マクマナスという若者は,エルヴィス・コステロという派手な芸名と眼鏡とスーツに,ジャズマスターを銃のように携えてパンクシーンに殴り込みをかけたのだ。

 

もし,コステロが眼鏡のかわりにサングラスをかけて,スーツでなくて黒のライダースを着て,スラックスのかわりにダメージジーンズを履いて歌っていたら。。

 

想像しようとしてみるけど,うまくイメージできない。

 

そんなマッチョなコステロはあんまり想像したくないし,眼鏡にスーツにジャズマスターでパンクを鳴らしたからこそ,クールになり得たのではないかと思う。

 

彼のように”紳士”然とした若者も,音楽で身を立てようとしたときにパンクをチョイスしたところに,当時のパンク・ムーヴメントの影響力の強さを感じる。

 

コステロの初期以降の作風を見ていくと,精神はともかく,スタイルとしてのパンクを好んでいたかどうかは疑わしいと思われるからだ。

 

これは好みによるのだが,私はやはり5作目までのポップでパンクなコステロの作品が好きだ。

 

ファッション云々も語るけど,前提として曲の素晴らしさはあるのですよ,勿論。


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今回で101記事めになります。

 

「音楽と服」の原点に戻って,アーティストとファッションの関係性について考えたことを,たまーに書いていこう思います。

 

今後ともよろしくお願いします。

 

 

100回目の御礼

 この度,ついに100回目の投稿となりました。

初投稿から実に203日。

これもひとえに,読者の皆様のおかげです。


当ブログは「音楽と服」に関する話題について語り尽くすことをコンセプトに,昨年9月に開設しました。


好きなことについてなら長く続くかと思い,100記事は一つの目標でもありました。

これからも緩く長く続けていけたらと思います。


100回を迎えるにあたり,どんな記事にしようか,ここ数日考えてきましたが,PV数公開など,誰もがやってることはしなくてもいいかなと思いました。

個人的に嫌いではありませんが。


まあでも,私にしかできない記事にするなら,と考えると別の形が見えてきました。


これまでに,当ブログに登場したアーティストは計66組。 

その中でも複数回登場している方々もいます。 

勿論私自身の好みが一番反映されていますが,読者の皆様の共感を得やすいアーティストは登場回数が増える傾向にあります。


そこで,これまでに「音楽と服」に登場してきたアーティストのベスト5をランキング形式で発表しようと思います。


第5位(4回登場) デヴィッド・ボウイ

はっきり言って,デヴィッド・ボウイはとっつきにくいアーティストだと思う。
あのビジュアルだもん。仕方ないよね。

でも,一回試しに聴いてみてほしい。
意外と聴けるから。
その深さにはまってしまったら,しばらくは抜けられないかも。

彼の出してるアルバムはほとんど全部好きだが,結局よく聴いてるのは「レッツ・ダンス」。
芸術性の高さで売っていたボウイが,ポップミュージックを本気でやってみたら,これだけのものがつくれるんだと。

一曲目のキャッチーさは癖になる。マジですよ。

 

 

第5位(4回登場) サカナクション

同率5位はサカナクション
新作「アダプト」も素晴らしかった。
前作「834.194」から本格的に聴くようになったけど,スタイリッシュでも決してポップネスを忘れないとこ,そこかしこに漂う寂寥感。

次は何をやってくれるのだろう?
何しでかすか分からないところも好きです。

 


第5位(4回登場) KIRINJI

KIRINJIはごく最近,聴くようになったアーティストだが,一つ物凄く残念なのが,バンド時代にリアルタイムで聴いていないこと。

KIRINJI第2章は堀込高樹を中心としたバンド形態だが,キーボード・コーラスにコトリンゴ,ギターに弓木英梨乃らを擁したメンバーが織りなすジャンルレスに洗練された楽曲群は,奇想天外だけど不思議なキャッチーさがあって,いま現在私のハートを完全に鷲掴みしている。

タイムマシンがあるなら,2013年に戻って一度ライブを観てみたかったなあ。

 それでも,堀込高樹さんのソロとなった新作もクオリティ高いです。今後の活動にも期待。

弟ともう一度デュオ時代に戻るなんてことは,ないでしょうかね。。

 

 

第3位(5回登場) ザ ビートルズ

ビートルズをなくしてロックは語れない。
誰しも異論はないと思う。
そうした一般的な認識を置いておいても,彼らは私にとっては特別なバンドだ。

20歳前後の時期に彼らのディスコグラフィーを全て遡って夢中になって聴いた体験が,ロックの奥深さを考えさせてくれるきっかけにもなった。
ロックもメタルもポップもテクノも,元を辿れば彼らのアイデア溢れる楽曲に行き着くのかも知れない。

後期の芸術性が高い曲も勿論好きだが,意外とこの「ビートルズ、フォー・セール」好きなのだ。
底抜けに明るいような曲もどこな寂しさが漂う。
ビートルズ・フォー・セール

ビートルズ・フォー・セール

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しばらくはビートルズを聴いていると,松村雄策さんのことを思い出すのだろうな。

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第3位(5回登場) ブラー

もう一つ3位はブラー。
私はこのブラーというバンドに並々ならぬ愛着をもっていて,メンバーの関係性や繊細さ,不完全さも含めてずっと応援をつづけている。

この「パーク・ライフ」は彼らのキャリア史上,もっとも華やかな活躍をしていた時期にリリースされたアルバムだ。
バンドとしても勢いがあり,自信に溢れてる感じもする。
英国至上主義(クール・ブリタニア)に振り切っているあたり潔い。
パーク・ライフ

パーク・ライフ

  • アーティスト:ブラー
  • ユニバーサル ミュージック (e)
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この後,迷いが出てアメリカを志向する彼らも好きだが,ブレていても不思議な品の良さが彼らの曲にはある。 

sisoa.hatenablog.com

 そして、お洒落なんですよね。

いつまでも憧れです。

 


第2位(8回登場) オアシス

2位は,私のハンドルネームの元ネタにもなったオアシス。
さすが8回も登場している。
語弊を恐れずにいうならば,オアシスの音楽にはよい意味でも悪い意味でも,それほどの深みはない。
分かり易い。

佳曲と駄曲の差がはっきりしている。

いい曲はとことんいい。
何回聴いてもいい。
「オール・アラウンド・ザ・ワールド」とかね。
Be Here Now

Be Here Now

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 彼らの来日最後となったフジロックのステージを観れたのは今となっては,貴重な体験。

小雨の中の「シャンペン・スーパーノヴァ」は忘れられない。


ライブの後芝生に座り込んで吸った,折れ曲がったセブンスターの味も。

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第1位(9回登場) スピッツ

はい,スピッツですよね。
多かったですね。9回も登場してます。
このブログを始めてからです。
スピッツのよさを再発見したのは。

 考察記事を書く中で何度も聴き返して,その曲がもつ背景なんかに改めて気づくとか,ありましたね。

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 KIRINJIもそうだけど,スピッツの曲は聴いていると,鮮やかに情景が浮かぶ。言葉選びが巧みなのだと思う。

「みっけ」の曲で言えば,「ありがとさん」とか。


自分の言葉で語ることが,相手に伝えることなのだなと改めて思います。 

 

スピッツにまつわる話では,アーティスト対決で皆さんにも参加してもらったのも楽しい思い出です。

スピッツは敗れましたが,機会があればまたやりたいですね。

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これまでに一番PV数を稼いだのは,この記事です。

 ゴリラズのコンセプトについて書いた記事。


これを書いた日は,実は家族で旅行中でホテルで寝てたのだけど,眠れなくて悶々としながら考え事をしていた。

不思議なことに,次第に記事の構想が頭のなかでまとまってきて,朝3時過ぎに書き始めて,5時くらいに書き終えた。

午前中は特に何もなかったが,昼過ぎにブックマーク新着に載ったのを皮切りに,その後スマートニュースにも掲載されたらしく,この記事だけでそれまでの総PV数を軽く超えてしまった

一定数のブックマークをもらえればブクマ新着に掲載されることもあるようだけど,毎回ではないので,掲載基準があるのかは謎です。

おそらく,ブクマ数だけでは決まってはいないのだろう,というくらいしか分かりません。

いずれにせよ,多くの方に読んでいただけるのはモチベーションになります。

ブログというのは,誰のためでもなく自分が書きたいから書いているものなのだけど, それでも読者の皆様からスターやコメントをいただけなければ,多分100記事まで書かなかっただろうと思います。


つまり,この100回は皆様のおかげということです。


次の目標は,私自身が皆様のモチベーションの一助となることです。


いつもありがとうございます。

これからも,「音楽と服」をよろしくお願いします。

こんな音楽を聴いてきた

 3月から4月にかけて,レッチリやらサカナクションやら,好きなアーティストたちがたて続けに新譜を出してくれたおかげで,聴きたい音楽は溢れかえっている。

 

しかし,結局はヘビロテでかけるのはKIRINJIのベストに落ち着いた。

 最近妻も仕事が忙しくなったせいで,私と同じように早朝に起きてくるようになった。

 

先日,いつものようにKIRINJIのベスト「20132020」をかけていたら,

「こんなん聴くようになったん。だいぶ変わったね。」

と言われた。

 

彼女が言う「こんなん」とは,例えば弓木英梨乃リードボーカルをとり,feat.YonYonの「Killer Tune Kiss Me」。 


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 囁くような内省的な歌詞を紡ぐ弓木のボーカルに,YonYonの韓国語ラップが自然に馴染む,シティーポップナンバー。

 

いいじゃない,と思うのだけど,確かに少し前には決して聴くことのないジャンルだったかも知れない。

 

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「四国に行ったときの車の中でかけてた曲は全然違ったよ。」

と妻が言うので,回想してみる。

 

四国。

確かに行った。まだ結婚する前,遥々四国まで車で旅行した。

2011年の夏かな。

あの頃聴いてたのは,どんな曲だったか。

 

思い出した。

確かストロークスのアルバムが久しぶりに出た年で,春から夏にかけてそればっかり聴いていたのだ。

 

特に2曲目の「Under Cover of Darkness」が好きで,ドライブしながらよくかけていた。

 

桂浜から高知北部の山深い山地を越えて香川へ。

山間部に点在する知られざるうどんの名店を巡ったのは懐かしい思い出だ。


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この頃は,フジロックに毎年のように行っていた頃で,クラブミュージックにも随分のめり込んだ。

 

特にベースメント・ジャックスはよく聴いた。

たった一人で参戦した2009年のフジロック最終日。

スペシャルゲストとして,最後の最後にメインステージに登場したのがベースメント・ジャックス。

 

迫力あるコーラスに派手なサウンドで,グリーンステージをあっという間にパーティー空間に変えた。

 この頃リリースされた「スカーズ」と,「フント」はベースメントのディスコグラフィーの中でも特に一押しのアルバムだ。


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 「レインドロップス」,懐かしいなあ。

やっぱり名曲。

 

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最初に洋楽に目覚めたのは,グリーンデイから。

よくある「バスケット・ケース」からではなく,3rd「Warnig」の「マイノリティ」を気に入った。

ウォーニング

ウォーニング

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確か,よく聴いていたラジオ番組でプッシュされていたのだと思う。

初めて洋楽のアルバムを買い,高3の冬には来日ライブにも行ってきた。

 

ベースのマイクが,写真で見るより大きくて,かっこいいなあと思ったのを覚えている。

 

今ではドーム,アリーナクラスの彼らが,まだライブハウスを回っていた時代だ。


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こうして自分の聴いてきた音楽遍歴をたどってみると,ずいぶん色んなジャンルに親しんできたものだと思う。

でも,多かれ少なかれ誰しもそんなものじゃないだろうか?

 

メロコア~パンク(スカ)~UKロック~60・70年代ロック~クラブミュージックときて,最近ではジャズや日本のロック(サカナクションやKIRINJI)だ。

 

「丸くなったんじゃないの?」

と妻には笑われたが,そうではないと思う。

 

例えばコルトレーンのセッションはスタジオ録音でも,痺れるような迫力だ。

そしてKIRINJIの「The Great Journey」の緊迫感はどうだ。

 

一聴しただけで「アグレッシブさがない。」とは決めつけられない。

音楽の深みは,決して音のデカさや即効性だけでは判断できない。

 

あ,そんな思考自体が「丸くなった」ということなのかな。

いやいや。

「丸くなるな。★になれ。」

ですよ。

 

今何年振りかで「もっと聴きたい」意欲が次から次に湧いてきています。


次は何を聴こう。

 

わくわく。

 

 

 

 

スリルと情緒の「アダプト」

UNIQLOの黒スウェットパンツ,+Jの黒パーカーに最近購入したグリーンのノース・フェイスのキャップを被る。

 

ダントンのショルダーバッグには財布とスマホ,イヤホン,定期券と文庫本だけ放り込み,玄関のドアを開けた。

 

春先の冷気が一瞬で全身を包む。

スマホで確認すると気温は4℃だ。

インナーはヒートテックにして正解だな,と思う。

眼鏡がマスクから上がってくる吐息で,すぐに白く曇った。

 

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最寄駅から電車に乗り込む。

時刻はまだ朝5時半。

この電車なら,博多駅には6時過ぎに到着するだろう。

 

博多駅から徒歩5分の明治公園に自転車を預けている。

駅から職場までの距離が長かったので,年度途中で徒歩から自転車通勤に切り替えたのだった。

勤務地が変わるため,自転車を次の勤務地の最寄駅に移動させなくてはならない。

 

私の前勤務地は,駐車可能台数が限られている上,朝夕は渋滞に巻き込まれるため,敢えて電車+徒歩or自転車通勤を選択していた。

 

異動を控えた昨年10月ごろ,次の勤務地には車通勤にしたいと考え,知り合いのディーラーから新車の契約をしていた。

しかし,折からの半導体不足のため,2月と言われていた納車は3月末になり,5月になり,今では本当に5月に来るのかすら疑わしい

 

そのため,新年度になっても不本意ながら電車+自転車通勤を継続せねばならないのだ。

 

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そういうわけで,6時過ぎに博多駅到着。

明治公園下の駐輪場も利用は今日が最後だろう。

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ビルの谷間にある猫の額のような公園だった。

地下が駐輪場になっており,出口の隣にとんこつラーメンの名店「一幸舎」があり,芳醇な香りに誘われて, 暖簾をくぐったことも一度や二度ではない。

 

定期契約が昨日までで切れていたため,管理人さんに

「一晩分の代金払います。」

と申し出たのだが,

「その分はいいですよ。新しい勤務地でも頑張ってください。ご利用ありがとうございました。」

と,柔和な笑顔で送り出してくれた。

 

明治公園を後にして,北へ進路をとる。

三年勤めた職場との訣別がようやく実感として湧いてくる。

 

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思えば,前職場での三年間はそのまま,コロナに振り回され続けた三年間だった。

異動初年度の年明けから流行が始まり,緊急事態宣言を受けてリモートワークが始まった。

 

宣言が明けてからは,出勤できるようになったが,感染状況によって対応が変わり,そのたびに計画の練り直しを余儀なくされた。

 

加えて,感染予防のため飲み会等は全てカットされた。

もともと,私は育児が忙しくてなってからはあまり出席できていなかったが,それでも節目の会くらいは出たいと思ったきた。

しかし,コロナでそんな機会もないため,ここ二年で異動してきたメンバーは,マスクの下の素顔もよく知らないといった状況だった。

 

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約25分自転車をこいで,次の勤務地の最寄駅に到着した。

近くにある定期利用駐輪場に自転車を預け,地下鉄の駅に降りる。

 

イヤホンからはサカナクションの新作「アダプト」が流れてきていた。

「アダプト」は,二部作の一作目となるコンセプトアルバム。

「適応」という意味があり,コロナ禍への適応と思ってもらっていい,と山口一郎はインタビューで語っていた。

 

冒頭のインストナンバー「塔」。

2曲目はレイドバックしたスローなナンバー「キャラバン」。

 

なんだかカフカの「城」を思い出させる曲名と雰囲気だ。

 

長旅の末たどり着いた城壁に囲まれた街で,一刻も早く登城したい主人公は,怪しげな住民たちに阻まれて結局とどまり続けるしかないストーリーが記憶の底からむくりと起き出してくる。

 

得体のしれない病原菌に支配された,おどろおどろしい現世の不安を象徴しているとも読み取れるかも。

 

4曲目の「プラトー」では,一転してひりひりとした緊張感のある展開に。

曲中から入ってくるカッティング・ギターは初期のアークティック・モンキーズを彷彿とさせる,小気味いいリズム。

 

この夜は

目を閉じて見た幻

いつか

君と話せたら

 

君が今感じてる

この雰囲気を

いつか

言葉に変えるから

 

プラトー

 


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掴みどころのない「雰囲気」をも,言葉に変えて乗り越えていこうとする主人公の強い意志を感じる歌詞。

スリルに満ちた,これ,名曲の予感。

 

 

7曲目「シャンディガフ」は,いい意味で力の抜けたナンバー。

緊張感のあった前2曲から対照的に,リラックスした雰囲気に包まれる。

 

私は思うのだけど,名盤と呼ばれるアルバムは大抵,アップテンポナンバーとスロウなナンバーのバランスが優れている。

 

アップテンポばかりだと疲れるし,逆にスロウが多すぎても間延びしてしまう。

 

このバランスは結構難しいのだが,「アダプト」はそこらへんの匙加減が絶妙なのだ。

 

ついでに言うと,スロウなナンバーにもセンスが必要で,私は平板な歌は好きになれないのだけど,この「シャンディガフ」からはしっかりと「情緒」が感じられる。

 

ベタベタのではなく,あくまでもさりげなく。

 

いいセンスをしているなあ,と思いながら,電車を降りてコメダ珈琲へと続く道を歩いていた。

 

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「アダプト」はおそらく,5年くらいしたら名盤の評価を得るに至っている,と思う。

 

来年出るって言われてる二部作の二作目「アプライ」(応用)も楽しみだな。

コメダで朝食のホットドッグを頬張りながら,来る新作にも思いをはせた。

 

その前に新年度だ。

今年こそは,新天地でもっといい仕事するぞ。

だってほら,「アダブト」(適応)していきますから,ね。

きっと。

Deep Sea Diving Clubというバンド

先日,前の職場でのお別れのことを記事にした。

 

sisoa.hatenablog.com

 

実は,その後日談がある。 

 

31日の最終出勤日に,長年お世話になった先輩に別れの品を渡した。

 

その先輩とは同期で(歳はあちらのほうが5つくらい上だけど),かれこれ15年くらいの付き合いがあるが,今回同じ職場になって三年間一緒に働いた。

 

用意周到,親切な人柄の上,緻密な仕事ぶりで上司からも部下からも絶大な信頼を集める人だ。

 

この先輩に挨拶をしている時にふいに話題が逸れ,

「そういえば,義理の弟がやってるバンドが最近結構売り出してて。」

と言い出したので,

「メジャーですか?」

と聞くと,先輩は頷き

タワレコでもパワープレイされていて,いま全国のクラブサーキットで回っているらしい。」

とのこと。

 

「バンド名は?」

と問うと

 

「Deep Sea Diving Club」

と言うそう。

 

響きがいいね。

直訳してしまうと,変てこな感じになってしまうけど。

 

聞いたことのないバンド名だったが,ジャズなどをルーツにしたシティ・ポップらしい。

 

先輩とは付き合いが古いので,私がアメフトをやっていたことや,フジロックに毎年参戦していたこともよく知っていて,何かとこういう面白い話題を提供してくれる。

 

「聴いてみます!」

と約束し,その場を辞した。

 

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で.社交辞令ではなく本当に聴いてみた。

 

Deep Sea Diving Clubで「Just Dance」。

 

MVでは,深夜の都市高速を駆け抜ける一台の車。

芝生の上で演奏するバンド。

メンバーは三人。

椅子が一つ空いている。

 

もう一人のメンバーが駅のホームをダッシュする。

階段を駆け降り,駅前に停めている自転車に飛び乗ると,深夜の車道の真ん中を駆け抜ける。

 

街灯の下,儚げに揺れる自転車のライト。

彼はまもなく芝生の家に到着し,自転車を降りると一目散に中に駆け込んだ。

 

四人揃ったダイミングが,曲の一番の盛り上がり処。

 

まるで,夜風のようにさりげなく,でも確かに耳に残るグルーヴだ。

 

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このMVの舞台が何処なのかははっきりしなかったが,都市高速などの様子は見覚えがあった。

彼らが拠点とする地方都市なのかも知れない。

 

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Deep Sea Diving Clubの曲を聴きながら,アーティストと,そのルーツになる土地や気候っていうのはどこかでつながっているのだろうな,という気がしてきた。

 

イギリスのアーティストの曲からは,総体として曇り空を思わせるどこか憂鬱な,そして知的な雰囲気を感じ取ることができる。

 

アメリカ西海岸のアーティストの曲からは,カラッとした,スコーンと抜けるような清々しさというか潔さを感じることが多い。

 

あくまで,総体として,だけど。

 

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Deep Sea Diving Clubに話を戻すと,彼らと同郷のアーティストには,例えば椎名林檎がいる。

彼女の音楽からは、どうしても中洲の匂いがするのだ。

雑多で,如何わしくて,妖しくて。

 

ちなみに彼女はブレイク前に地元ラジオ局で「悦楽パトロール」という変な名前の番組をやっていて,泣きぼくろのエピソードなんかを話してくれていた。 

 

あのホクロは,泣きぼくろに憧れていた少女時代の彼女がマジックで目の下にホクロを描き続けていたら,いつの日かそれが消えなくなって,本物のホクロになってしまった,というエピソードだ。

「染みじゃないの?」

というリスナーからのお便りにも

「少しもっこりしてるし,本物のホクロなんです!」

と力説していた。

 

 

話は逸れたけど,Deep Sea Diving  Clubの曲はなかなかクールですよ。

3月30日にデビューアルバムもリリースしています。

全国にその名を轟かせてほしいものです。

 

Let's Go! DSDC!

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MVはこちら。


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 サカナクションも,レッチリも,遂に出ましたね。

まだ買ってないけど。

 

子どもたちの習い事の間に,買ってこよう。

それではまた。

 

 

ありがとう,さようなら

4月1日付けで新しい職場への異動となる。

 

今日は,今の職場で最後の勤務日となった。

 

本当は昨日で最後にするつもりだったが,片付けが終わらず今日に持ち越し。

 

まあ,息子2人を連れて片付けようにも,なかなか捗らないのは仕方ないだろう。

本人たちはチヤホヤされるので,私の職場に遊びに来るのは好きなようだが,それでも昨日で最後ということでさすがに名残惜しそうだった。

 

今日は,本当なら年度内の仕事が終わっていたはずだったので,午前中は家族で水族館へ。


昼過ぎに帰ってきて,それから職場へ向かった。

私は数年前,自家用車通勤ができない職場に一年間勤めていた時に自分の車を手放し,以来電車通勤をしている。


毎朝6時半頃の電車に乗り,そこから約40分かけて職場の最寄駅へ。

最寄りとは言っても,そこから20分以上歩かなければならない。


毎朝,ビルの谷間から見える小さな空を見上げながら,職場への道を歩いた。


電車と徒歩で,片道約1時間。 


この通勤時間は苦痛ではあったが,電車の中で仕事をしたり本を読んだり,ブログを書いたり居眠りしたり,まあそれなりに楽しんでいた気もする。

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若手が多い職場だったが,皆働き者でよく動き,3人の子持ちでろくに残業もできない私はいつも助けてもらっていた。


今日は荷物を片付け,職場に残っていた人たち一人一人に挨拶をした。

皆,最後は玄関まで送りに来てくれた。


当たり前だけど,この職場での最終日は一生のうちで今日だけなので,書き記しておくことにした。


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大きなボストンバッグとキャンバスバッグを両手に抱え,車に乗り込む。


エンジンをかけると,カーステからキリンジの「進水式」が流れ出した。

キリンジが,バンドKIRINJIとして船出をした時の記念碑的な作品。


新しい職場は今のとこより随分こじんまりしているそうで,人の数も半分らしい。


明日から始まるな。


船出の歌を聴きながら,頭の中で呟く。


明日はどんな空を見上げながら ,新たな職場までの道を歩いているのだろう。


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本を「読む」,音楽を「聴く」とは~養老孟司「ヒトの壁」から考えたこと~

最近書店で買った養老孟司さんの本に,以下のようなことが書かれていた。

 

「ああすれば,こうなる」が成立するように人は社会を構築する。それが都会である。意識の産物であり,理屈が重視される。

その理屈通りにならない可能性のあるものは,徹底して排除する。だから都会には人工物しかなくなってしまう。

私はときどきそれを指摘してみるが,世間にはほとんど通用しない。オフィスには意味のないものを置いてみるといいですよ,と言ったこともあった。意味のあるものだけに囲まれているのはむしろ不自然なのだ。しかし,実行する人は少ない。オフィスにも都会にも,いつまで経っても人工物しか置かない。最近では机さえなくなって,ついには人間さえいなくなってきている。理屈がいちばん通じない人間がいなくなったか。

「ヒトの壁」養老孟司 新潮新書より引用

 

この部分を読んでいて,思い出した話があった。

 

先日,妻がママ友と世間話をしているときに,「読書」の話題になったそうだ。

そのママ友は,家が散らかるのが嫌だという理由で,絵本などは買わずにタブレットを購入し,子どもに読みたい本はそこから読ませていたらしい。

 

しかし,

「失敗した。」

と語っていたそうだ。

 

タブレットは親が管理しているので好きにみることはできない。

周囲に本がある環境にいないと,子どもって自分から本を読もうとしないですよね,とそのママ友は話をしていたという。

 

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我が家には子どもの絵本や児童書だけで200冊以上ある。

私や妻の本も入れると多分千冊以上が本棚に並んでいる。

 

ちなみに,児童書に関しては「童話館」という選書サービスを利用している。

これは,年間契約で定額を払えば毎月2冊子どもの年齢に合わせた児童書が配本される仕組みだ。

 

自分では絶対に選ばないような外国の物語も多く,親もすごく刺激を受けている。

 

児童書類は,子ども達が自分で取り出せるように無印で買った背の低い本棚に収納している。

 

当然部屋の中は散らかる。

 

だけど,例えば三男は「だるまさんが」を片手に私のところへやってきて

「だーるーまさーんがー♪」

と体を揺らして「読んで」と要求してくるし,次男は「おめん」の絵本を自分の顔にあてて遊んでいるし,長男は「ロビンソン・クルーソー」などの名作シリーズにはまって一人で黙々と読んでいる。

 

最早カオスなのだが,本は常に身近にあるため,子ども達は好きに手に取って絵や字を目で追っている。

 

効率化や散らかさないことを考えれば,タブレットで見せることが得策なのかもしれないが,やはり「自分で手に取ってめくる,見る」という経験には勝てない,と思う。

 

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同じことは音楽にも言えるのではないか,と考えたりしている。

 

私はサブスクリプションなるものを利用したことがないため,あまり断定的な物言いはできないが,サブスクこそ音楽から「聴く」という行為だけを抽出した「商品」ではないかと勝手に考えている。

 

でも,音楽って「聴く」だけじゃないんですよね。

そこには少なくとも「身体性」が絡んでくる。

 

CDのジャケットアートワークを眺める。

CDをステレオに差し込む。

「キュゥーン」とCDが吸い込まれていく音がし,「キュルルーン」とステレオがうなり,やがて音が流れ出す。

ライナーノーツを(勿論紙で)読む。

 

この一つ一つの行為の総体が,音楽を「聴く」ということなのだと思う。

クリック一つで「聴く」のは味気ないよ。

 

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ここ数年は仕事が忙しくなったこともあって,あまりCDを買わなくなっていた。

 

しかし最近ジャズや新しいジャンルのロックに興味が出てきたので,この1か月で10枚以上新しいCDを購入した。

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積ん読ならぬ「積ん聴く」

やっぱり新しいCDというのは気持ちがいい。

 

キリンジのベスト盤のアートワーク,実は『KIRINJI』のロゴになってて洒落てるな。」

 

とか思いつつ,早朝から熱いコーヒーを飲みながら,(音量はおさえ気味で)これらを聴きながら読書をする休日の朝大好きです。

 

そうそう。

キリンジのベスト盤本当に良かったです。

教えてくださった皆様,本当にありがとうございました!

 

はてなブログで交流のあるブロガーさんの助言が私自身の音楽体験につながっていくって,素敵なことだなあと思っています。

感謝。

 


www.youtube.com

 

BOOGIEMAN dance with me tonight

マブシっす! ときめき隠せない

MOODYMAN rock with me tonight

飛び込んで 光の中に

BOOGIEMAN dance with me tonight

突っ立ってたって オモシロくない

MOODYMAN rock with me tonight

can't stop the dance とまらないの

 

「Mr.BOOGIEMAN」 作詞/作曲 堀込高樹 

 

本当,「突っ立ってたってオモシロくない」ですからね。